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投稿:2018年08月16日更新:2021年05月12日

多職種連携・地域連携

379. お年寄りの「生活の足」 問題解決に挑む・島田眼科の島田医師

お年寄りの孤立化、引きこもり防止につながる「生活の足」の問題を解決しようと、いわき市平の島田眼科医院・島田頼於奈(れおな)医師が4年前から挑戦をしています。自院の車両を街中で循環させるとともに、さまざまな医療機関と連携してお年寄りの交通手段を確保する送迎のシェアシステムを考案。地域の課題解決を考える「ふくしま復興塾」で準グランプリに輝いたそのアイデアを実現化させようと挑戦が始まりました。しかし、当初からの課題だった連携の輪が広がらず難航、現在は自院の通院困難者を予約で送迎する仕組みに変更しています。このほど送迎を利用した目も足も不自由なお年寄り女性は、バスに乗るのも大変でタクシーを利用するには経済的な負担が重く、「本当にありがたい」と送迎に感謝。「生活の足」問題解決への挑戦と課題を追いました。

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↑「生活の足」問題の解決に挑戦している島田医師=2018年7月31日、いわき市平の島田眼科医院

● 通院をあきらめ失明した患者も
島田医師は、通院をあきらめるお年寄りが多いのを感じて「生活の足」の問題に着目しました。目が悪くて運転ができず、送迎できる家族もいない患者の中には、緑内障の治療をあきらめて両目を失明し、約一年間寝たきり生活で人生を終えた人もいたといいます。「足」がなくても通院できる街にしたいと、島田医師は利用時間外の通院車両を街中で循環させるアイデアをひらめきました。地域課題解決のプロジェクトを立案する「ふくしま復興塾」に2014年度第2期生として門をたたき、半年間アイデアをさらに磨き上げ準グランプリを受賞しました。

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↑「ふくしま復興塾」で準グランプリに輝いた島田医師のアイデア

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↑準グランプリの表彰状

● 街中を通院車両が循環 多くの医療機関と送迎連携
そのアイデアは、いわき市中心部の平地区内で通院車両を循環させます。ルートはいわき駅、市役所、郵便局、病院、スーパーマーケットなどを回る約9キロで、運行日時は月曜から金曜までの午前9時から午後1時まで。さらに、独自に通院車両を運行している医療機関と送迎ネットワークをつくり「生活の足」をシェアします。例えば、バスが運行しない山間部のお年寄りが、ある医療機関の送迎車に乗って平地区に移動し、循環する送迎車に乗り換えて通院、買い物をし、別の医療機関の送迎車に乗って帰ることも可能です。内科、外科、循環器科、皮膚科、小児科などさまざまな診療所が連携して「生活の足」を共有できれば、患者は複数の医療機関に足を運ぶのが容易になり、街が“総合病院化”し勤務医不足の解決にも一役買えます。

● 難しい「医療機関との連携」
2015年1月から実現に向けて挑戦。島田医師は送迎車1台を購入して平地区内を循環させました。企業の社会的責任(CSR)として取り組むので利用は無料で、定年退職者を運転手として雇いました。しかし、プロジェクトの大きな課題であった「医療機関との連携」が広がりませんでした。島田医師は医療機関に協力を呼び掛けたものの、他施設の無料送迎を利用することに対する遠慮、患者説明の煩雑さ、事故発生時の責任、需要が不透明―などの理由から実際の利用はありませんでした。スタートから間もなく、利用者が増えないため循環するのを断念しました。

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↑送迎車は現在、患者の直通送迎に利用。患者は「本当に助かっている」=2018年8月9日、いわき市小川地区

● 現在は直通送迎
現在送迎車は、予約した通院困難の患者の直通送迎に利用されています。管轄はいわき市中心部から遠く離れた川前や大久地区なども入ります。遠方の地区は第1、3月曜の午前中といったように基本的に送迎する地区と曜日が決められ、希望の患者は自分の地区の送迎日に合わせて予約し島田眼科以外の施設での途中下車も可能。現在の利用者は月80人で、スタート時より60人増えました。

● 一人暮らしの女性 「本当に助かっている」
8月9日には小川地区の患者の女性(86)一人を送迎。島田眼科から車を走らせること約30分、家の玄関前で女性が傘を差して待っていました。息子が亡くなり2年前にいわきに来て、一人で暮らしているといいます。「足も目も悪い。バスに乗るのも段差があるし、バス停まで行くのも大変」と語ります。本来はタクシーで通院するしかないけどお金が掛かるといい「本当に助かっている。送迎を利用している人はみんなそう思っているはず」と感謝していました。ドライバーは「ご家族がいても仕事で忙しく送迎を頼めないというご利用者もいる。山間部はバスが何本も通っていないし、感謝の声を多く聞く」と話します。島田眼科に到着し、女性は無事に受付窓口にたどり着きました。診察後は通院のため別の病院に送迎車で向かう予定でしたが、台風が来ていたため帰宅しました。

● 「アイデアの周知不足」「取りまとめ役の不在」…
島田医師は、医療機関だけでなく介護施設や幼稚園、自動車学校など、送迎車を所有するあらゆる事業所が連携して送迎ネットワークをつくれば、へき地の高齢者にもさらに外出の機会をつくることができると提案します。各事業所が持つ車両を共有し、市内全域に送迎網を拡大するためにはどうすればいいか。島田医師は「アイデアの周知不足」「取りまとめ役の不在」「責任と法律の問題」「運転手や協力車両の不足」と分析。社会全体が人材不足の中でほかの医療機関に労力の負担を負わせるのは簡単ではなく、「生活の足」の必要性がもっと高まって地域全体が動く機運を待っているのが現状。「運転手が辞めたら自院の送迎すら続けられない」と島田医師。決定的な打開策がないまま挑戦を続けています。

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↑アイデアの循環ルート

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↑送迎ネットワークの輪が広がれば、お年寄りの行動範囲も広がる


島田医師は送迎車を「希望があれば貸し出します」と話し、いわきの「生活の足」の課題解決に向け地域資源として利用してもらいたい考え。
<島田眼科医院のお問い合わせ>
電話:0246-22-1677
ホームページ(ふくしま医療情報ネット):https://www.ftmis.pref.fukushima.lg.jp/ap/qq/sho/cwdetaillt01_001.aspx?kikancd=0720001392
フェイスブック:https://www.facebook.com/shimadaecl?ref=hl

【関連情報】
福島の未来を担う若者向け人材育成プロジェクト「ふくしま復興塾」ホームページ:http://fukushima-fj.com/

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