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投稿:2018年04月21日更新:2021年05月15日

298. 介護、きらめく瞬間③・認知症サポーターの矜持

帰宅して駐車場に車を止めた時、夜の住宅街の坂道を上る怪しい男の影に気付いた。3歩歩いては2歩下がる異様な動き。目を凝らすと片足はスリッパでもう片方は裸足だった。

「徘徊(はいかい)者だ。助けないと」

そう思った瞬間、恐怖心に襲われた。夜中に女一人で声を掛けたら何をされるか分からない。

「やっぱり見なかったことにしよう…」

無視して家に入ろうと決めたら心が痛んだ。首から下げている社員証のひもには、「認知症サポーター」の証しのオレンジリングが付いている。認知症サポーターの講師「認知症キャラバン・メイト」の資格も取得したばかりだった。

「やっぱり助けよう」

サポーターとしてのプライドが勇気を奮い立たせた。徘徊者を見失わないよう見張りながら家にいる義父を携帯電話で呼んだ。薄暗い路上。住宅の明かりだけが頼りだ。「殴り掛かってはこないか…」。義父と一緒に恐る恐る男に歩み寄る。意を決して声を掛けた。

瞬間、男からお酒の強烈な臭気を感じた。認知症者ではなく酔っ払いだった。拍子抜けしながら話を聞くと、近くのアパートに帰る途中だという。千鳥足のその男が無事に帰れるよう家まで送った。地域の認知症サポーターとしては空振りの“デビュー戦”。でもオレンジリングホルダーの誇りと勇気は示せた。充実感に笑みがこぼれた。