医療技術が進歩した現代、医師はあらゆる手段で命をつなぐことが可能になり、例えば心臓だけを動かしてでも延命ができるようになりました。ですが、延命の可能性が広がった反面、心臓だけ動く植物のような状態は人間の尊厳が守られるのか、尊厳死は議論されています。そのため、自分はどう死にたいか、元気なうちに家族と考え意思表示を書き残すことが大切です。このメッセージにより、医療側は一刻を争う緊急処置が必要な場面でも患者が望むよう対応できます。逆に、それがないと、医療側は延命の使命を果たそうと意思を聞く間もなく、本人の望まない救急処置をする可能性が出てきます。● 宮崎市のエンディングノートがモデル
救急の現場で患者の意思確認をするのが難しい課題を抱えた市医師会は2015年4月、関係者に呼び掛けて「いわき市におけるリビングウィル作成会議」を開催しました。メンバーは以下※。計2回の会議の意見交換を経て、先進的に取り組んでいた宮崎市のエンディングノートを基に、書き留めるノートと書き方の手引きを作成することに。翌年3月に発行され、これまで1万5000部印刷。市内の医療機関や市役所で受け取れ、市医師会や市が主催する地域医療に関する講座などでも積極的に配布されています。
● 7つのチェック項目
わたしノートは、6ページのハガキサイズの冊子。死期が迫った場合の延命治療を意思表示するページでは、「人工呼吸器、心臓マッサージなど、生命維持のための最大限の治療を希望する」「人工呼吸器は希望しないが、胃ろうなどによる継続的な栄養補給を希望する」など7つのチェック項目があり、「私の想い」を書き残すスペースも。そのほか、「有効な治療法がない場合の告知」「臓器提供や献体」「万一に備えた治療方針を決める代理人」「伝えておきたいこと」について書くページもあります。
● 難解な延命治療法 手引きで説明
手引きは14ページ。「心臓マッサージ」「カウンターショック」「気管挿管」「気管切開」「点滴」「胃ろう」などの延命治療の方法が丁寧に説明されています。さらに、救急車を呼ぶと「命を助けてほしい」というお願いになり、本人が望まない処置が施される可能性が高くなるという注意も記載。4人の事例紹介では、関係者全員が意思確認できていたため希望通りの最期を迎えられたという例や、救急車を呼んだために退院できなくなり自宅で最期を迎えられなくなった例などが取り上げられています。
● 市民への浸透 「まだまだ」
担当の市地域医療課の阿部征人主査によると、地区の医療講話でこのノートを知った市民から「配りたいからほしい」との問い合わせが昨年度2、3件あったといいます。ですが、阿部主査はこのノートの市民への浸透について「まだまだ」と話します。家族と離れて住む一人暮らしのお年寄りの場合は特に意思確認が困難だと課題を挙げます。「このノートをきっかけに、遠くに住む家族とも終末期について話し合ってほしい」と呼び掛けていました。ノートは、医和生会山内クリニックでも配布されています。