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投稿:2019年06月28日更新:2021年05月15日

いわきの介護

610. 認知症の方と一緒に①~M子さん

「すぐ忘れる」「奇声を発する」「徘徊する」「幻覚を見る」―。認知症と聞くと一般的にこのようなイメージを持たれるでしょうか。「怖い人」という目で見てしまいそうですが、認知症高齢者462万人(厚生労働省・2012年)の一人一人はそれぞれの個性と感情を持ち、脳の奥底には忘れられない思い出が眠っています。「症状」ではなく「人間」としてあらためて認知症の方と向き合おうと、当法人の認知症対応型「まごころデイサービス」を訪問。認知症を抱えるご利用者様と触れ合いました。不定期連載で1人目はM子さん。(「地域連携・企画広報課」・西山将弘)

 

<M子さん>

お風呂から上がってきたM子さんはホールのいすに座り、じっと「本日のメニュー」を見つめていました。私があいさつすると「文字読めないの」と返事。M子さんは手にしているその献立メニューをずっと見つめていました。顔はお風呂上りで赤くほてっています。桃色のつるがかわいらしいメガネをかけ、座るたたずまいから落ち着きとおしとやかさが漂います。M子さんは職員から受け取ったレモン水入りのコップを口に運ぼうとした時、中腰で話している私に「ハッ」とした表情で気付きました。「どうぞこちらに座りますか?」。隣のいすを空けてくださりました。

 

元気に体操するM子さん

 

腰を掛けて会話しますが、いまいち通じないところも。「目も耳も頭も悪いの。すぐ忘れちゃうの。ごめんね」。M子さんはご自身の頭を指差して、申し訳なさそうにそう口にしました。「お風呂はどうでしたか?」と耳元で尋ねると「悪い子がついてくるの」という。「どんな子ですか?」と聞くと、背後の柱を指差し「あそこの陰にいるの。男の子」。その男の子はお風呂の時に付いて来て、服を脱ぐのをのぞき見するのだそう。その度に職員が追い払ってくれるのだといいます。おびえた様子もなく、穏やかな口調で説明してくださりました。

 

お住まいの場所を尋ねると、M子さんは「入院しているの」。私も患者の一人と思われたのか「何階にいるの?」と質問されます。「1階ですよ」という私の答えにM子さんは「私は3階」。自称「85歳」のM子さんは「10歳上の夫」と一緒に生活していると教えてくださりました。私の生まれた場所の話題になると、M子さんはその場所の思い出を語りました。「きれいな医者の娘がいて、川で一緒にボートに乗った。その子は磐女(進学校の旧磐城女子高・現磐城桜が丘高)に行ってね。きれいだった」。その子は東京に進学して、それからもう会っていないといいます。もしかしたら器量も頭も良かったその子はみんなの憧れの的で、一緒にボートに乗れたのはうれしかったのでしょうか―。一度だけだったという当時の遠い面影を思い出しておりました。

 

レクリエーションの時間になり、七夕飾りのパーツを作ります。折り紙を何度も三角に折る細かい作業で、M子さんは「ダメだ。目が見えない」と消極的。「上手ですよ」と声を掛けると「これでいいの?」とM子さんの指は生き生きと動き始めました。折り目の少しずれた完成作品はアルミはくのようにキラキラ輝いています。それを手にしてお菓子の包み紙を想像したのか「チョコレートが入ってるといいね」と笑顔。三角形に小さく折りたたんだ作品を3つ作りました。

 

M子さんが折った七夕飾りに使うパーツ

 

お昼の時間。軟らかいご飯の入ったおわんに、刻んだ卵焼きやオクラ、こんぶなどのおかずを載せて味わうM子さん。味の感想を聞くと「おいしい」と答え、すぐに「ハッ」とした表情で「あれ、あなたの分は?」とお気遣い。「完食をモットーとしています」というM子さんはゆっくりとスプーンを口に運び「一粒でも残すのが嫌なの」。お椀の中のご飯粒を最後まで丁寧に、スプーンでカチカチ鳴らしながら集めてすくおうとします。お椀とプレートをきれいにして完食。「きれいに食べましたね」と声を掛けると「みんなそう言ってくれるの」。M子さんの笑顔がまた見られ、その表情は誇らしげでした。

 

 

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