「地域包括ケアシステム」を推進するための課題は―。「地域連携」を研究しているいわき市のいわき明星大看護学部の小林紀明教授(52)は、キーワードに「介護支援専門員(ケアマネジャー)の能力格差」「教育」「終末期の考え方」などを挙げられました。インタビュー企画の最終回です。
―小林教授が研究するケアマネジャーの能力差も地域包括ケアを推進する上で課題か?
そうです。一部研究でも言われていますが、ケアマネジャーの能力が不足し、その高齢者に合った適切なサービスを提供できていないという実態も報告されています。多職種と連携できるスキルがないと、「これとこれとこれ」といった決まった提案しかできなくなります。その能力があればいろいろなサービスをバランスよく提案できる。その能力差も、このシステムを推進すればするほど如実に現れる問題です。
―医療と介護の専門職が連携する上での問題は?
医療と介護の縦割りの関係性です。多職種連携とうたわれる今でも、一般的に医師と介護職は互いに理解しにくいものとされています。医師や看護師は医学の専門用語をつかってコミュニケーションを取りがちで、介護職は同じ利用者と一緒に関わる上で共通言語を持てません。先行研究でも、医師や看護師は上から目線で接しがちで、介護職はそれを嫌がって互いが背中を向け合っているという報告もあります。この縦割りの関係性を解消することは、連携を取る上で非常に大切でしょう。そのほか、地域格差が生まれる可能性も問題視されています。自治体によって地域包括ケアシステムに差ができ、思うようなサービスが受けられないと、成功している(良いサービスが受けられる)近隣の市に流れる可能性もあります。
↑医療、介護福祉関係者がケアの相談をし合い、横のつながりをつくる場「ケアカフェ」=2017年6月12日、いわき市平地区
―このシステムを推進するために求められることは?
まず一つは、現場で働く前の基礎教育の段階からお互いの職種を知るための教育が必要です。ただ、それは時間が掛かります。ですので、現場ですぐ何ができるかといえば多職種連携教育です。医師、歯科医、薬剤師、看護師、介護職、行政関係者などいろいろな専門職が合同で行う勉強会や、実際の事例を基に、それぞれの立場からどのような介入をするかをディスカッションする場を定期的に開催する。これを継続することによって、お互いの理解を深めていくことができるのではないか。
―終末期における考え方もこのシステムの推進に関わると聞きますが?
欧米では寝たきりの高齢者が少ないが、日本では多い。なぜかというと、日本の医療はありとあらゆる手段を使って加齢や病気による身体機能の低下を防ごうとします。例えば、食べられなくなったらお腹に穴を開けて胃瘻(いろう)※1をつくり栄養を送ったり、自力で痰(たん)が出せないなら喉(のど)を切開して吸引したりします。だから、寝たきりでも生きながらえることができ、医療依存度の高い在宅療養者が増えているのです。一方、ヨーロッパでは、その人がどう最期を迎えたいかを意思表示するリビングウィルが浸透しています。生前元気な時に「息が苦しくなっても人工呼吸器をつながないで」「胃瘻はつくらないで」など、自然に最期を迎えたいという尊厳死の考え方が根付いているため、体に穴を開けるなどはせず、寝たきりの人が少ないのです。寝たきりが増えると医療費も増えます。日本でも尊厳死については昔からその重要性が唱えられていますが、なかなか浸透していません。ですので、終末期の迎え方を真剣に考えることも大切でしょう。
(※1 胃瘻とは、切開して胃に管を通して栄養や水分を送るための医療処置)
―小林教授はボランティア活動の重要性を訴えますが、どういった理由でしょうか?
65歳以上のボランティアはとても重要だと思います。無償で活動するには、その質と量において共に限界はありますが、当然、社会的に良い効果や評価を生むのは周知の事実だと思います。さらに、ボランティアをする本人にとってもプラスになります。特に、介護職が働く施設で活動すると、いずれ自分も利用するかもしれない施設の実情を知ることができます。施設の人間関係やサービス内容などを自分の目で確認でき、さらに横のつながりができてほかの施設の情報も事前に得ることができるでしょう。情報収集は非常に大事です。なぜなら、いざサービスを受けるとなっても結局実情がよく分からないと、専門家(ケアマネジャーなど)に任せてしまいますが、専門家にも能力差があります。したがって、打算的ではありますが、自分で情報を収集して判断できる力を備えることが必要で、それを養うにはボランティア活動は有効だと思います。
−いわきの地域包括ケアシステムの現状は?
まだ来たばかりで本当に分からない。地域包括支援センターのケアマネジャーさんにリサーチインタビューをさせていただき、そこから地域を見ていきたいと思います。「平在宅療養多職種連携の会(※2)」に参加して、横のつながりが強いのではないかと感じています。スキルが高いケアマネジャーさんが多いのではないかと期待しています。
※2 (「平在宅療養多職種連携の会」とは、いわき市平地区の医療・福祉関係者らがつながりをつくり、情報交換する集まり。毎月一回勉強会や事例を紹介し合い、交流しています。事務局は平地域包括支援センター。
(終わり)
【「地域連携」 小林教授に聞く!】
「小林教授の紹介・㊤」 2017年6月13日投稿:https://iwakikai.jp/blog/2191/
「「地域包括ケアシステムとは?・㊥」 2017年6月14日投稿:https://iwakikai.jp/blog/2193/
【小林教授が「地域連携」について講話するいわき明星大の地域公開講座】
<Bコース>
講師:小林紀明教授
タイトル:「住み慣れた地域での在宅ケア~2025年問題と2050年問題って何?地域包括ケアシステムって何?~」
日時:2017年6月17日(土)午後1~3時
場所:いわき明星大学2号館AV大講義室(福島県いわき市中央台飯野5-5-1)
受講料:無料
<Cコース>
講師:レンデンマン美智子教授
タイトル:「子どもと家族の健康増進~自閉症の早期診断・治療・支援~」
日時:2017年6月24日(土)午後1~3時
場所:いわき明星大学2号館AV大講義室(福島県いわき市中央台飯野5-5-1)
受講料:無料
※Aコースは10日に終了しました。
<申し込みについて>
複数コース受講可。
申し込み方法:ハガキ、FAX、メール
申し込み先:以下
(ハガキ) 〒970-8551 福島県いわき市中央台飯野5-5-1 いわき明星大学地域公開講座係
(FAX) 0246-29-5105
(メール) chiiki@iwakimu.ac.jp
問い合わせ:同大地域連携センター0246-29-7839
【「地域連携」の関連記事】
小林教授が「地域包括ケアシステム」を推進する上で大切だと訴える「多職種連携」に関する集まりは、いわき市内でも行われています。
<平在宅療養多職種連携の会>