いわき市の「在宅医療」推進のため、いわきの医療・介護福祉の最前線で働く専門職は課題をどう認識しているか―。医師や歯科医、薬剤師、看護師、介護支援専門員(ケアマネジャー)ら56人がこのほど、いわき市の中央台公民館に集まり、講座やグループワークを通して情報共有しました。「在宅医療を推進する上での課題」をテーマにしたディスカッションで、意見の多さで見ると6グループ中半分が「市民への啓発・教育」を鍵とした課題を挙げました。講師を務めた市医師会の山内俊明理事(医和生会山内クリニック院長)は「今年は教育という声が多い。『市民への啓蒙』の意見も多く見られた」と印象を語り総括。参加者は、職場や患者ら身近な人に呼び掛けていこうと、すぐできる対策を共有していました。
● 8地区49事業所・団体から56人
この集まりは、9日に開かれた「在宅医療推進のための多職種研修会」。在宅医療の推進と多職種連携(※1)の促進のため、市医師会と市が主催しました。受講生56人は、医療や介護福祉に関わる団体から推薦を受け、8地区内の49事業所・団体から参加、いわきの現状を肌で感じている専門職者です(※2)。講師は、山内理事を含めた市内の在宅医や看護師、ケアマネジャーを合わせた9人。「在宅医療の役割」「報酬や制度」「多職種連携」などをテーマにした5講義と4グループワーク・プレゼンテーションを、計8時間にわたって行いました。
※1. 多職種連携とは、医師や歯科医、薬剤師、看護師、介護士、栄養士など様々な専門職が、共通の目標に向けて協働すること。国が各自治体に、住まい・医療・介護・生活支援などを地域が連携して取り組むよう推進している中、一人の患者を多くの専門職で連携してケアするためにも多職種連携が重要とされています。
※2. 受講者の職種、所属機関、地区
● 優れた専門職でも一人ではケアできない時代
山内理事は「在宅ケアにおいてなぜIPW(※3)が必要なのか?」と題して講義。お年寄りのケアは身体、心理、生活環境など多面的なアプローチが求められるとし「どんなに優れた専門職でも、一人では解決できない」と語りました。その連携を必要とする理由について、「命を救う治療モデル」から「生活の質を保った生きるための支援モデル」への転換、核家族化などにみられる介護できる家族の減少、支援する労働力不足などを解説。山内理事は「連携によって『あなたがいて助かった』と言われた経験があるのでは?そういったことから満足感が得られ、充実につながる。連携を深めて地域の健康レベルを高めていこう」とまとめました。
※3. IPWとは、Interprofessional workの略。複数の専門職が協働し、利用者や患者の期待や要望に応えること(参考:埼玉県立大学http://www.spu.ac.jp/view.rbz?nd=218&pnp=101&pnp=218&ik=1&cd=2385)
↑多職種連携の必要性について講話する市医師会の山内理事(医和生会山内クリニック院長)
● 遠慮のない意見 飛び交う
在宅医療推進への課題と解決策を議論するグループワークは、顔の見えるつながりづくりも兼ね、各グループ内で異なる職種が配置されるように6組を編成。受講生は意見をメモし、模造紙に張り付けて分類し、グループごとに総意をまとめていきました。あるグループでは、メンバーは「多くのかかりつけ医が終末期、看取の話題に触れない」など、現場で感じる思いのたけを遠慮なく語り、メモを貼り付け。「多職種で学ぶ機会が少ない」「医者同士の連携と協働が難しい」「市営住宅にエスカレーターがなく、外出が難しい」などの意見が出ると、それに類似する意見を持つメンバーも貼り付け。話し合い後、各グループが発表し合いました。
● 【課題のまとめ】
各グループで出た「いわきでの在宅医療推進への課題」を意見の多さでまとめますと、6グループ中半分が「市民への教育・啓発(『患者家族、住民の理解』含む)」、2グループが「資源、環境、マンパワー」、1グループが「連携」に関する点が、それぞれ1番でした(※4)(各グループ独自で課題の順位を決めていましたが、順位を挙げなかったグループもあり、とりあえず意見の多さでまとめました。それでも発表では、上記の3課題は多く取り上げられていました)。「市民への教育・啓発」の具体的な意見は、「医療が必要になったら『病院で過ごす』としか考えていない」「必要に迫られるまで制度を知らない」「相談場所が分からない」「介護に関する知識」など。
※4. 各グループの意見