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投稿:2017年11月10日更新:2021年05月10日

いわきの介護

180. 認知症ケア、5事業所が事例発表

介護福祉事業所のケア事例発表会「地域包括ケア」が4日、いわき市文化センターで開かれました。サブテーマの「認知症ケア」について、市内の5事業所が発表。「私たちの考えが相手にとって良いケアとは限らない」という気付きや、一人で散歩したい入居者の想いに応える挑戦などを共有し合い、認知症でもその人らしい生活を実現させるためのケアを考えました。市地域包括ケア推進課職員の講演もありました。

事例発表会は、介護事業を展開する「株式会社ツクイ」が主催。登壇した事業所は発表順に、認知症対応型共同生活介護「グループホームあしび」、地域密着型認知症対応型通所介護「幸寿苑」、サービス付き高齢者向け住宅「Well(ウェル)」、福祉用具貸与・販売「株式会社カンナ」、通所介護「ツクイいわき中央台」。いわき市地域包括ケア推進課の職員が、地域包括ケアシステムについて講演しました。

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↑発表する「あしび」の職員

● 一人で散歩したい想いに応える
「あしび」の職員は「ちょっと仏壇の花摘んでくっから!!~自由に出かけたい方への私たちの取り組み」と題して発表。郷里に帰れないとあきらめ、入居当日から暗く沈んでいた女性(89)。職員がチームで検討し、居室に仏壇を置くなどします。結果、明るくなったものの敷地外に仏壇の花摘みに行くようになりました。ですが職員が同行すると「一人で行く!」と怒鳴って悲しませることも。そこで穏やかな気持ちで安全に散歩させようと、家族から行動の傾向を聞き出し「こっそりついて行き、安全を確保する」ことにしました。清掃する住民などに変装し気づかれないよう見守り。元々一人で散歩するのを好んでいたという女性は、空き地やスーパーに足を運び、近所住民との会話や買い物を楽しんでいました。家族は、以前と比べ「別人のよう」と喜び、一緒に外出する機会も増加。発表者は、本人、家族、スタッフ、地域住民たちの協力の大切さを感じたと振り返りました。

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↑発表する「幸寿苑」の職員

● 信頼築き発揮される言葉の力
「言葉の持つ力」をテーマに発表したのは「幸寿苑」。帰宅願望が強い男性(84)は「何が何だか分からなくてイライラする」と周りに怒ることもありました。職員は、落ち着く状況とそうでない状況、職員への気遣い、会話時の様子など気付いたことを話し合い、対応策を検討。出身地や仕事など明確に話せる話題を見つけ出し、その会話でストレスを軽減させました。さらに落ち着かない時間帯には互いに座って視線を合わせて会話するようにしました。「手伝うか?」と気遣ってくれた時は、快く引き受けてくれる作業を頼み「ありがとうございます、助かります」の言葉を忘れず伝えました。次第に職員が頼む前に自ら下膳するようになりました。職員は座って対応することでゆとりが生まれ、男性が安心できる「言葉」を探すように。発表者は「あらためて言葉の影響力を感じた」と語り、気持ちや会話で生まれた信頼感があってこそ伝わり、効果が発揮されると述べました。

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↑発表する「Well」の職員

● 認知症が重度化しても共同生活を支援
「Well」は「共同生活をより良く送るために、私たちができること」について発表。徘徊(はいかい)し、大声を発するためほかの入居者から苦情があった認知症の男性(入居当時85歳)へのケアを振り返ります。今後認知症が重度化した場合、自立度が高い入居者との共同生活を継続できるか葛藤します。そこで、起床時間や食事の様子、不穏の状態とその要因などを詳細に記録しました。これらを基に対策を見つけます。夜の安眠につなげるため日中の活動量を向上、食事量を増やし空腹の不穏の誘発防止、落ち着かない時間帯に1対1の対応ができるよう勤務の見直し、ほかの入居者へ定期的な不満の聴き取りなどを実施。結果、不穏言動が軽減し、ほかの入居者の不満の声もほとんどなくなりました。発表者は「認知症が重度化しても共同生活が送れないわけではない」と述べ、簡単に「無理です」とさじを投げず、できることを模索してチャレンジする姿勢が大事だと語りました。

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↑発表する「カンナ」の職員

● 福祉用具は生きていくためのライフライン
「増加する認知症高齢者と福祉用具のこれからについて」発表した「カンナ」は、介護で起こりやすい事故とそれを防ぐ用具を挙げます。1番多いという介護ベッドの事故では、柵に手足をはさんだり、転落があり、それらを防ぐためにクッション付きの柵や、柵を使わない低床ベッド、床に敷く衝撃吸収マットも出ていると紹介。介護者の負担が増えると身体拘束し、要介護者の身体機能が低下、さらなる身体拘束につながるという悪循環の危険性を訴えました。その防止のため、利用状況を把握する定期訪問やともに認知症を理解する大切さを挙げました。発表者は「福祉用具を活用することで、できなかったことができるようになる。用具は生きていくためのライフライン」と述べました。最後、スマートフォンに知らせる徘徊感知機器や、アニマルセラピーロボット、靴などに取り付けるGPS端末など最先端の用具を紹介しました。

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↑発表する「ツクイいわき中央台」の職員

● 「その時にできる一番のケアを」 挑戦して気付く
「ツクイいわき中央台」は「認知症、M様とH様について~仲良しのお二人の笑顔を大切にしながら」と題し、その人に合ったケアを試行錯誤しながら見つけ出す取り組みを発表。入浴を拒否するM様は、H様となら一緒に行動するほど仲良し。二人に再度向き合い認知症ケアを考え、さらにH様に関わり過ぎないM様への新たなるアプローチを模索しました。認知症ケアでは、レクリエーション、気分をリフレッシュするため外食する外出行事、喜んで取り組んでくれるコップ洗いを紹介。M様への新たなアプローチでは、座席をH様のはす向かいにしました。次第に落ち着くようになり、ほかの人とも話すように。ですが、入浴は、スタッフだけでは難しいとあらためて痛感。発表者は「M様にとってH様がいることが一番安心できる環境だと分かった」と述べます。「私たちの考えが相手にとって良いケアとは限らない」とし、「その時に一番良いと思われるケアをしていく事が大切」とまとめました。

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↑講演する市地域包括ケア推進課の職員

● 要介護認定率 全国や県内平均よりも高いいわき市
市地域包括ケア推進課の職員は、市の介護保険給付費が2016(平成二十八)年までの16年間で200億円増加した推移を説明。市の要介護認定率や高齢独居世帯の割合も、全国や県内平均と比べて高いと警鐘を鳴らします。日本人の多くは自宅で死にたいと思いつつ、実際は病院で亡くなるのが多いことをデータで示し、在宅療養が普及しない要因を「在宅で医療や介護が受けられることを『知らない』」「どこで最期を迎えたいか本人・家族が『考えない』」「本人の意向を尊重したいと思いつつ、家族的には『こわい・不安』」と挙げました。その普及のため、集いの場や講座を開催したり、インターネットやフリーペーパーなどで情報発信している取り組みを紹介しました。