精神障がい者サポーターの養成講座がこのほど、いわき市総合保健福祉センターで始まりました。今回は「発達障がい」がテーマ。初回の参加者は、「社会性」「運動」「記憶力」などの能力差がそれぞれ突出して上下している「発達障がい」の特性を理解し、一人一人異なる能力に合わせて療育する視点が大切だと学びました。
● 臨床心理士の海老名さんが講師
この養成講座の前身は、精神保健福祉ボランティアの養成講座。ボランティア団体「T&T」が1999(平成十一)年2月に誕生し、社会復帰の支援や作業所の手伝いなどの活動者を育てていきました。その後、障がいに理解のある市民を増やそうと2012(平成二十四年)にサポーター養成講座に目的を変更。本年度は3月1と22の両日、「発達障がい者への理解と対応」をテーマに2回に分けて開講。講師は「YKストレスケアオフィス」代表で臨床心理士の海老名悠希さんで、発達障がいの特性とサポート方法を講義します。主催は市保健所地域保健課。
● 3つに分類される「障がい」
3月1日に開かれた初回の講座には24人が参加。海老名さんは「発達障がいの特性」を分かりやすく解説しました。「障がい」は①脳機能の損傷や手足などが失われた「機能的(Impairment)」②物をつかむ、本を読むといった「能力的(Disability)」③就学や就労、結婚などの「社会文化的(Handicap)」に大きく分類されると紹介。①は医療によって治療・補完、②は教育や訓練によって獲得、③は福祉によって克服ができると、それぞれの特徴を挙げました。①「機能的障がい」は胎児期から幼児期までに生じた中枢神経(脳)の異常によって生じる症状として5つに分類され、「発達障がい」はそのうちの「行動障害(BD)」に基づいていると説明。BDの「客観的に評価される行動異常」の所見は、そわそわ、迷子、こだわり、不眠、マニアック、物忘れ、人と一緒が苦手など。
● 「精神」と「発達」の障がいの違いは?
「精神」と「発達」の各障がいの共通点と違いも解説。共通点は、ともに精神科での相談が妥当で、本人や家族が障がいを抱えていると気付きにくく、周囲の理解度で生きづらさが左右されるといった点。違いは、「発達」は環境や育て方と関係なく生まれながらの特徴である一方、「精神」は直接的な発病の引き金になるのがストレスであると説明。改善するのに必要な視点は、「発達」は特性を理解し長所を伸ばすといった「療育」である一方、「精神」は服薬を含む「治療」。発達障がい児・者は虐待を受けやすいが、精神障がい者は被虐待体験によって生まれるという違いも説明されました。
↑発達障がい児者の生きづらさをグラフで見せる海老名さん。横軸に各能力、縦軸にその能力の習得度合に沿って点を結ぶと折れ線グラフになり、平均値よりも大きく上回るか下回ってデコボコになるのが「発達障がい」。
● 発達障がい児者が生きづらくならないように
発達障がい児者の生きづらさをグラフで可視化。海老名さんは横軸に「言葉」「社会性」「粗大運動」「微細運動」「記憶力」「認知力」と能力名を、縦軸でそれら能力の「習得の度合い」を書いたグラフを見せます。「発達障がい」は各々の能力が平均値よりも大きく上下していると解説。例えば、友人がたくさんいて社会性が優れているものの、言葉をうまく扱えない発達障がい児は、周囲から「人付き合いがうまいのに、なんでできないの?」と思われて生きづらさを感じるといいます。海老名さんは、支援するには一人一人の特性を理解し、苦手な能力でも自信を失わせないよう工夫して療育的視点から対応していくのが大事だとアドバイスしました。
● 「能力を平均にする必要はない」
質疑応答で「能力はどうしたら平均にできるか?」との問いに、海老名さんは「平均にする必要はないし、それは無理。偉人に平均の人は少ない。どう得意な能力を伸ばして生きやすくするかを考えるのが大切」と回答。生きやすい環境をつくるためには、極端な能力差を理解する人が周りにいるかがまず重要で、欠点ばかりでなく得意能力にも目を向け、どんな状況に追い込まれると苦手になるかといった分析が必要になる、と助言しました。
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