私はキクエさんに会いたくて「すばる」を訪れました。キクエさんはベッドで休まれていましたが、「お話したくて来ました」と声を掛けると、目を開け、「あらぁ、ありがとね」と笑顔を見せてくれました。「すばる」のスタッフから「ほとんどの時間を居室で休まれている」「水分が取れなくなってきた」と聞いていたので、声を聴けてほっとしました。
4年ほど前、新入職員研修先の「にこにこデイサービス(現:やがわせデイサービス)」で、黒澤キクエさんに出会いました。90歳を超えていましたが、杖や車椅子も使わずにしゃんとした姿勢で歩くので、「お若く見えますね」と言うと、ハッハーと大笑い。
↑ハッハーと笑うキクエさん
利用者様を「可愛い」と言ったら怒られるかもしれませんが、キクエさんは本当に可愛らしい方で、私はすぐに“ファン”になりました。ほかのスタッフも「誰からも愛される存在」と口を揃えます。90歳まで民謡のボランティアで高齢者施設を慰問されていたキクエさんは歌が上手で、カラオケのレクリエーションでは「さざんかの宿」「北国の春」を熱唱。キクエさんの歌を楽しみにしている利用者様も多くいらっしゃいました。
↑運動会に参加するキクエさん(写真右)=平成27年10月15日
今年の夏頃、「やがわせ」に顔を出すと、キクエさんの雰囲気がだいぶ変わったように見えました。レクリエーションの間もベッドで休まれることが増え、皆さんとは離れたテーブルで静かにお食事をしていることもありました。「体力が低下してきた」「家でもずっと寝て過ごしているらしい」とスタッフも心配そうでした。そして10月に、キクエさんはデイサービス利用を終了し、当法人の小規模多機能型「すばる」利用を開始しました。
↑「やがわせ」での盆踊り(写真右)=令和元年8月17日
今月17日、デイサービスを利用していた頃のキクエさんの写真を何枚かお持ちして、会いに行きました。赤いハチマキをつけた運動会の写真を見て「私だね、懐かしい。ハッハー」と笑うキクエさん。ひととおり話し終わると、キクエさんは小さな声で「もう97歳になったから『無理しなくていい』って言われてんだ。もうあの世に片足突っ込んでんだもんねぇ。でもみんなが会いに来てくれるから頑張れるんだよねぇ」と。部屋を出ようとする私に「お茶も出さなくて悪かったね、ありがとう、ありがとねぇ」と手を握り「また来てね」と声を掛けてくれました。振り返るとキクエさんはまた目を閉じ、眠りについたようでした。付き合いが浅い私ですが、「ありがとう」という想いと涙が溢れました。『前はあんなに元気だったのに』とか『まだまだ元気でいてほしい』という気持ちではなく、穏やかな時間を過ごしてほしいと願っています。
↑写真を見つめるキクエさん=令和元年12月17日
この日、キクエさんは一時帰宅し、家族様とお家でゆっくりと過ごされたそうです。家族様は「家で過ごせて喜んでた。もう一回ぐらい、家に連れてってやりたい」と目を潤ませていました。キクエさんは家族からも愛されていました。