福島県認知症介護指導者で作業療法士の石井利幸さん(白河市・介護老人保健施設ひもろぎの園)がこのほど、いわき市のかしま病院で「認知症の人の意思確認」と介護業界で聞かれるようになった「エンド・オブ・ライフケア」をテーマに講演しました。認知症の患者本人を抜きに勝手にケアの判断をしていないかという自問、たとえ意思を引き出そうとしても答えが出ない葛藤、それでも寄り添い考える意義を共有。全国各地に講演で飛び回っている石井さんの話を聞こうと、いわき訪問リハビリ研究会が主催しました。
● 93人が聴講
いわき市内の作業療法士、理学療法士、言語聴覚士らを中心に93人が聴講しました。石井さんは「エンド・オブ・ライフケア」の日本語が「人生の最終段階の医療」を意味し、これまでの「終末期医療」よりも幅広い視点で対象者をとらえ、その人らしく生ききるための支援だと紹介。「エンド・オブ・ライフケア」は患者、身近な大切な人、専門職者の三者との合意形成のプロセスだと説明し、5つの特徴(※1)を示しました。5つの特徴の一つで、三者がともに治療の選択に関わるのも大事で、石井さんは「胃ろうの判断を家族に確認するのに、メリットやデメリットを丁寧に説明しているか。後悔につながってしまうこともある」と自戒を込めて訴えました。
※1 合意形成プロセスの5つの特徴
- その人のライフ(生活や人生)に焦点を当てる
- 患者・家族・医療スタッフが死を意識したときから始まる
- 患者・家族・医療スタッフがともに治療の選択にかかわる
- 患者・家族・医療スタッフがともに多様な療養・看取りの場の選択を考える
- 生活の質(QOL)を最期まで最大限に保ち、その人にとってのよい死を迎えられるようにすることを家族(大切な人)とともに目標とする
● 意思決定支援の3本柱
石井さんは意思決定支援の3本柱(※2)を「本人の意思」「家族の意向」「医学的判断」と説明。伝えられない患者の意思を確認するため、表情や声の明るさ具合などを観察する「現在」、人生を振り返って考え方に思いを巡らす「過去」、将来の本人の利益を考える「未来」の視点を持つのが大切だとアドバイスしました。「過去」の考えは今変わっているかもしれない可能性も指摘しました。石井さんは、胃ろうを断った家族が患者の死後に「この判断は正しかったか」と医師に迫った事例を紹介。胃ろうを判断する家族がほかにもいるため「正しかった」と言えないその医師は「本人の気持ちに思いを馳せ、本人にとっての最善を考え抜くというプロセスを十分に経た上で判断しており、そういった意味で正しかったと思います」と諭すと、その家族は楽になったという。たとえ患者が会話できず本当の答えを聞き出せなくても、無視するのではなく、代わりに思いを巡らす姿勢が患者のためではないか、という考えを共有しました。
※2
「意思決定支援の3本柱。ページ中央に記載されています(公益財団法人長寿科学振興財団ホームページ):https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-shakai/endoflife.html
● 「本来のその人ならどう思う?」
初期認知症の人が不安を訴える番組動画を流し、認知症だからできないだろうと決めつけず、できるようになるためのサポートを考える必要性を紹介。石井さんが経験した事例も披露。外出して道順が分からなくなる兆候がありつつも、車も乗れ日常生活に支障がない高齢女性の支援経過を取り上げ「本人抜きで本人の支援を決めるジレンマ」とともに、答えは出ないけど「本人のことを深く考える挑戦」の意義を共有しました。「本来のその人ならどう思うか?」という考え方について、認知症の上品な女性が入所した事例を紹介。赤ちゃんをあやすように「レロレロ」と楽しそうに声を出すようになったその女性のため、施設職員も「すごい」と喜ばせるようになったが、婦人会の役員も務めていたその方の人生を振り返ると果たして本人はその状況を望んでいるのか。石井さんは「答えはない」としながら考える意義を呼び掛けました。この講演は2月14日に行われました。
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