いわき市平の平窪地区にある「ひらくぼ内科クリニック」はコミュニティハウス「皐月庵(さつきあん)」をつくり、今秋から定期的に医師が健康講座を開いています。参加者数を増やすよりも「近くの住民同士の密な交流」を目指して運営。「食」と「医療」をテーマにした交流の場を考え、スクリーン付きのホールと広々としたダイニングキッチンが整っています。このほど開かれた講座では、参加住民が「高血圧」について理解を深め、医師と気軽に健康相談できる場所ができたと喜んでいました。
↑住民に健康講話する渡邉さん。「皐月庵」の企画・運営にも携わる
● 山あいで地域医療経験
「皐月庵」の企画・運営に携わるのは、「ひらくぼ内科クリニック」の院長の娘姉妹。姉の医師・渡邉聡子さん(かしま病院総合診療科)は、高知県梼原町(ゆすはらちょう)の山あいで地域に根差した総合診療に3年間携わった経験もあります。そんな渡邉さんがおととし妊娠してから家族と会話する時間が増え、地元・平窪に根差して住民の健康を支えたいという思いを強くしました。地域活動に興味があった管理栄養士の妹とも思いが一致し、空き家になった実家を交流スペースにリフォーム。プロジェクターとスクリーンを備えたホールは定員10人ほどで、子ども向けの本が並ぶ本棚もおしゃれ。食育の講座を想定してつくられた広いダイニングキッチンは、光差す窓際のカウンターが目を引きます。「思い出」と「未来への夢」が込められたダイニングテーブルとベンチ型のいすは、震災で全壊した院長実家の旧家に立っていた大黒柱とリフォーム前の家の欄間が再利用されています。
● 「少人数でも近くの住民に来てほしい」
「皐月庵」は今春に完成。10月から毎月2回、木曜午前に定期講座を開いています。渡邉さんが講師を務め、これまで「脂質異常症」「糖尿病」「終活・エンディングノート」をテーマに講話してきました。診察時間が限られ健康相談できない患者も、講座に参加すれば医師と気軽にコミュニケーションを取って理解を深められます。渡邉さんは「多くの市民ではなく、少人数でも自転車で通える範囲の平窪住民に来てほしい」と話し、PR活動はクリニック内にとどめ、狭い範囲の住民の付き合いを密にしていく方針。定期講座以外にも、外部から講師を招いて子育て、英語、笑いヨガといった不定期企画も展開しています。
● 住民に分かりやすく 「高血圧」講座
12月6日の「高血圧」の講座には住民3人が参加。渡邉さんは負担を掛けると破裂する血管をホースに例えて分かりやすく説明しました。薬の副作用の危険を過剰に訴える週刊誌記事について、渡邉さんは「医師は副作用を知っている。それでも高血圧のリスクの方が恐い場合がある。薬を賢く使えば恐くないので医師と相談してほしい」と呼び掛けました。血圧に不安を感じたら「常に継続的に測定する」必要性、心筋梗塞にもつながる高血圧と喫煙の危険性、冬場の入浴の際に温度差で心臓に負担が掛かる「ヒートショック」の予防法などのアドバイスもしました。
● 住民の健康の悩み みんなで受け止める
講座後には雑談。「退職して人との付き合いがなくなって、頭が悪くなっている自覚がある」と悩みを打ち明ける参加者に、渡邉さんは「次は脳トレをやりましょう」と提案し、別の参加者は「テレビのクイズ番組は刺激になる」という助言も。悩んでいた参加者は「人と出会えて、医師と気軽に相談できる場所があってありがたい」とにっこり。ひらくぼ内科クリニックで事務をする、渡邉さんの母親も途中から加わり、四国の方言や文化の話題で盛り上がっていました。
● 連携ある地域医療への思い
渡邉さんは、地域貢献と研究活動の一環でかしま病院から協力を得て、同病院の籍で講師を担当。「妄想ですが」としながら「ここでのコミュニティづくりの成果を病院で共有して、地域住民と一緒に健康を考える『プライマリ・ヘルス・ケア』も視野に入れた連携のある地域医療を展開していきたい」という思いも。渡邉さんは「住民と近い位置で、ざっくばらんに対話をしながらやっていきたい」と目標を話していました。
【関連情報】
「ひらくぼ内科コミュニティハウス 皐月庵のフェイスブックページ」:https://www.facebook.com/satukian.hirakuri/
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↑「先日皐月庵で開かれた『まぁるい抱っこ』のおさらい会」 2018年12月12日投稿:http://ymciwakikai.jp/blog-entry-630.html