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投稿:2020年05月13日更新:2022年12月06日

いわき医療偉人

803. 食べることは生きること・「食介護」を生んだ市川文裕氏伝記④~お伝えしたいたくさんのこと

いわき市の歯科医師・市川文裕氏(享年56)が立ち上げた「いわき食介護研究会」の活動は、約20年前当時としてはユニークなものだった。まだ珍しい時代にホームページを立ち上げたり、お年寄りも食べやすいおいしいメニューを考える「介護食コンテスト」を開いたり、今でこそ介護業界では当たり前となっている「食前体操」を考えたり。子どもの食生活を改善する「食育」、在宅介護の最前線で活躍するヘルパーの教育にも力を入れていました。日本の介護史に足跡を残した「食介護」の父・市川氏を伝える不定期連載の4回目。(事業推進室・西山将弘)

 

↑現在も閲覧できる「いわき食介護研究会」のホームページ

 

● 今も生きているホームページ

「いわき食介護研究会」のホームページは今も生きている。まだホームページが珍しい21年前の2000(平成十二)年に開設された。URLはhttp://e-taberu.com/。更新は2011年4月8日を最後に途絶えている。「これからの高齢化社会に必ずや必要とされる「食介護」という新しいジャンルを、皆さまに御理解いただき、いつまでもおいしく食べることを実践していただきたいという願いをこめて、このホームページを作りました」(2000年7月22日)。アクセスすれば今でもその市川氏のメッセージ(※1)に出会える。「おいしく食べる学習」のページは「食介護」の知識が体系的に学べるよう時間割表にデザインされ、当時は斬新だった工夫に違いない(※2)。市川氏は今もなお、インターネット上で「食介護」を伝道している。

 

※1 いわき食介護研究会ホームページより:http://e-taberu.com/syokukaigo/whatssyokukaigo/whatssyokukaigo.html

 

※2 いわき食介護研究会ホームページより:http://e-taberu.com/school/index.html

 

● 介護食 みんなで考えよう

「介護食コンテスト」も興味深い取り組みだ。「かむ」「飲み込む」が困難な方々のため、おいしく食べてもらえる料理を考案するイベントだった。2001(平成十三)年まで2回開催されている。2回目の大会では、介護施設や病院のスタッフから8メニューの応募があった。審査員としていわき市長、西洋料理人でつくる司厨士協会の福島県本部長らが名を連ね、見た目、栄養、味を競った。最高賞のいわき市長賞を受賞したメニューは「海鮮小田巻粥・かわりごま豆腐・はんぺんと大和芋の蒸し物・キャベツプリン・紅茶ゼリー」。このメニューもホームページで確認できる(※3)。

 

※3

「おいしく食べる食事(いわき食介護研究会ホームページ)」:http://e-taberu.com/syokukaigo/syokuj/syokuji_1.html

 

● 食前体操も考案

かむ筋力や飲み込む機能を活性化させる「食前体操」も市川氏が考案した。「首」「顎・唇」「舌」の各体操と「口腔周囲筋」のマッサージで構成された4つの運動だ。口を開閉したり、「パッパッパッ」と発声したり、頬をマッサージしたり。市川氏は、摂食・嚥下と発音に障がいのある女性(78)が3カ月間この体操を続けた結果、発音が明確になって摂食や咀嚼も改善された事例を報告している。現代でこそ動画共有サイト「ユーチューブ」で検索すれば簡単に様々な「食前体操」を閲覧できるが、市川氏は2000年に体操のビデオを完成させ国内に広めていた。誰でもなじみやすいようラジオ体操の曲を選び、市川氏によるピアノ演奏に合わせて女性が見本の動きを見せる動画だった。

 

↑市川氏が考案した食前体操

 

● 子どもたちへ食育を展開

将来の介護予防のためにも、子どものころから正しい食生活と味覚を身に付けさせようと「食育」も2001年から展開。大野中学校で「地産地消」を学ぶ調理実習を、郷ヶ丘小で味覚やかむ大切さを学ぶ授業を、それぞれシェフと一緒に行った。在宅介護の現場でお年寄りの「食」を支えているヘルパーのレベルアップにも努め、「介護食セミナー」も開いていました。研究会の専門職メンバーの講義と管理栄養士による介護食の調理実習を実施。2004年と07年の計2回開かれ、各回ヘルパー40~50人が「症状にあわせた段階移行食の調理法」「1人分でも簡単に出来る調理法で栄養確保」のテーマで介護食料理の腕を磨きました。

 

● 「まだまだお伝えしたいことはたくさんあります」

「食介護」を年々進化させてきた市川氏。食介護の伝道師はこれら活動を広めるべく、全国各地に飛び回って講演し続ける。研究会ホームページに残るメッセージには普及への情熱が垣間見える。「まだまだお伝えしたいことはたくさんあります。随時アップしていきますので、末永くおつきあいしていただければ幸いです」。病魔に倒れ、介護される立場になってもなお伝えることを止めず、「食介護」を未来に残そうと命の炎を燃やし続けていく。

 

(つづく)

 

【参考文献】

2007年6月「第6回いわき食介護学会 平成19年度日本摂食・嚥下リハビリテーション学会公認セミナー」主催・日本摂食・嚥下リハビリテーション学会、いわき食介護研究会

 

【市川文裕氏伝記のバックナンバー】

https://iwakikai.jp/blog/?c=%e9%a3%9f%e3%81%b9%e3%82%8b%e3%81%93%e3%81%a8%e3%81%af%e7%94%9f%e3%81%8d%e3%82%8b%e3%81%93%e3%81%a8%e3%83%bb%e5%b8%82%e5%b7%9d%e6%96%87%e8%a3%95%e6%b0%8f%e4%bc%9d%e8%a8%98