いわき市の医療をリードしていく新病院「いわき市医療センター」が今月下旬に華々しく開院する陰で、隣の旧病院「市総合磐城共立病院」内の「共立理容店」がこのほど42年の歴史に幕を下ろしました。闘病で不安だらけの入院患者を散髪で癒やし、愛され続けた小さな理容店。退院後も長年通い続けていた男性が最後のお客となり、さっぱりした表情を見せて帰って行きました。理容師は思い出を振り返り、静かに荷物を整理。次は移動式店舗の車両を走らせ、外出困難者を喜ばせる挑戦が始まります。
↑最後のお客が帰り、42年の歴史に幕を下ろした「共立理容店」=2018年11月30日午後4時50分
↑退院後も通い続けた最後のお客。18年たち続けた理容師・富樫さんに洗髪してもらい笑顔=2018年11月30日午後4時4分
● 最後の客は退院後も通い続けた男性
閉店した11月30日午後4時ごろ。車いすに乗った70代男性が、理容師の富樫好美さん(58)から気持ちよさそうにゴシゴシ洗髪してもらっていました。シャンプー台から顔を上げて鏡に映った表情は頬を赤らめ笑顔。男性は5、6年前に入院した際にベッドでひげをそってもらっていたといい、以来退院後も気に入って遠く離れた勿来地区から通い続けているといいます。付き添いで来ていた妻は「入院中はイライラした様子でしたが、切ってもらうとさっぱりしていた」と入院当時を思い返します。髪型のセットが終わり、最後のお客となった男性は「次は(病院近くの)本店に行きます」と伝え、妻に車いすを押されて帰っていきました。
↑「次は本店に行く」とあいさつして帰った最後のお客=2018年11月30日午後4時11分
● 巡る思い出 「終わる実感ない」
午後4時15分ごろ。この理容店で18年間立ち続けた富樫さんは「まだ終わる実感がない。来れなくなると寂しくなるのかな」としみじみし「無事に終わった」と表情を緩めました。開店当初から震災直前まで利用していたという南病棟の入院患者を思い出すと「ただ坊主にするだけでしたが、毎月利用してもらっていた。喜んでくれていたのか、毎回高い栄養ドリンクをくれた」とうれしそうに語りました。脳の手術を受ける患者の頭を暗い部屋でそった思い出も。富樫さんは「辛い入院体験をした人ほど退院後も来てくれた」と感謝していました。
↑幕を下ろした店内をじっと見つめる鈴木社長=2018年11月30日午後5時
● 次なる挑戦がスタート
富樫さんはすぐに片付けに取り掛かります。「共立理容店」を運営した「クリエイティブ・ロダン」の鈴木明夫社長と一緒に、旧式のレジスター、戸だな、洗濯機などを台車に乗せて外に運び出し、バリカン、まだ残っているシャンプー、ひげそり道具、電卓などをビニール袋に詰めます。先代社長だった父親の職場だったため、鈴木社長は子どものころよく遊んでいたと当時を懐かしみます。ソファーも撤去し、だんだんと薄汚れた灰色の壁や床があらわに。ドライヤーを手に殺風景になる店内を見つめる鈴木社長は「親父が始めた場所がなくなると思うと何とも言えない」としばし沈黙。困っている人の力になろうと訪問理容サービスを始め、スタッフ全員がヘルパー2級の資格を取得するようにしたのも、先代社長がここで闘病の患者を目の当たりにしたのがきっかけだといいます。新病院に移転できないと決まった時、先代社長は無念さをにじませていたと聞いているだけに、鈴木社長は「(父親は)残念がっているはず」とも。それでも今日4日から移動式店舗の車両を使う新しい歴史が始まります。鈴木社長は「移動式店舗も親父がやりたかった夢。今は準備でみんな忙しくして、寂しがっている暇はない」と前を向いていました。
↑普段と変わらないような手つきで最後の戸締りをした富樫さん=2018年11月30日午後5時2分
【関連情報】
「クリエイティブ・ロダン」ホームページ:http://creative-rodan.com/
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