長時間狭い座席に同じ姿勢でじっと座っていた乗客が立ち上がって歩き出したり、トイレに行ったりして倒れ、重症の場合亡くなることもある「エコノミークラス症候群」のことです。
しかし、研究結果によれば44例(男性3例、女性41例、平均年齢61歳、平均搭乗時間11.6時間、死亡4例)中、エコノミークラス31例、ビジネスクラス6例とエコノミークラスだけではありません。さらには、航空機だけでなく自動車、列車、船舶でも起こります。また、入院中の患者さんで、特に肥満者が手術により長時間安静臥床した後に起こることが多いと言われますが、今回は入院以外の発症について考えます。
この疾患は、主に静脈の中に血栓ができて、それが遊離して肺血管に詰まって血液の流れを閉塞するために起こるのです。要するに、座る姿勢によって静脈が圧迫され、血流が停滞し、血管の内皮が障害され、さらに血液の固まりやすい状態があると血栓ができやすいと言われています。できる場所としては、下肢静脈、骨盤内静脈が9割以上です。そこにできた血栓が起立、歩行、排尿、排便などをきっかけに血管の壁からはがれて、血液の
流れに乗って肺の血管まで流れ着いて肺動脈を閉塞して発症します。従ってその予防には 長時間の旅行になるときに同じ姿勢をとらないこと、排便排尿を我慢しないこと、そして 寝不足やお酒の飲み過ぎで脱水にならないことに注意しましよう。
また、血液が固まりやすくなる薬物(女性ホルモン、ステロイドホルモンなど)を服用している方は特に気をつけなければなりません。旅行前に主治医と相談することも良いでしょう。せっかくの楽しい旅行を台無しにしないために知識と予防が大切です。お大事に!
山内 俊明
※この記事は、朝日サリー(2008年11月号)「ハートでクリニック」に掲載されました