高校生になった年の夏、ある日突然我が家にやってきた仔犬。
姉が「自分へのご褒美」と称して連れてきた、その犬種はヨークシャーテリア。
それがワカ君との出会いだ。無知な高校生はその犬種名すら知らなかった。
クルクルと毛糸玉のように動き回るその仔犬にあっという間に夢中になった。
名前は前に飼っていた猫の名を引き継いで、「ワカ」に決まった。
ワカ君の世話はとても楽しかった。
餌をやり排泄の世話をして、ブラッシングをし、散歩も。
芸はあまり教えなかった。それでもワカ君は言葉を理解し、いくつか芸らしいことができるようになった。得意だったのは「とってきて」だった。特に大好きなおもちゃのいくつかを聞き分けて持ってくることができた。今でもワカ君との楽しかった日々を思い出す。
けど、高校卒業とともに、寮生活となりワカ君との別れは以外にも早く訪れた。
その日、姉にワカ君を託し、涙の別れをした。最後に抱いたぬくもりも忘れられない。
今も大好きな犬種はヨークシャーテリアだ。
けれど、在宅時間や現在の家族の意見を尊重し今は飼うことは考えていない。
飼わない理由は、もうひとつワカ君への自責の念があるからだ。
かわいがっていた。かわいがっていると思い込んでいた。
でも、嫌なことがあったときに八つ当たりしたことがあった。
友達との予定を優先しひとりで過ごさせることも多かった。
もっともっとかわいがってあげれば・・・・・、そんな苦い気持ちが残っている。
仕事があって、ちゃんと大切にできるだろうか?
それが不安で、新たに飼うことはあきらめている。
今は、通勤途中で毎朝見かける何匹かに勝手にあだ名をつけて、車の中から「おはよう」と声をかけている。ネット上でよそのヨーキーを眺めるのも楽しみのひとつだ。
新たな「ワカ君」との出会いは老後の楽しみにとっておこうと思う。