バーチャル・リアリティ(VR・仮想現実)の技術を駆使した認知症の体験会がこのほど、いわき市のいわき芸術文化交流館「アリオス」で開かれました。9月に市地域包括ケア推進課が開く「いごくフェス」でVR認知症体験コーナーを設置するに当たり、医療、介護、行政の関係者がまずは体験しようというプレイベント。仮想空間で認知症になった参加者は、普段の生活で感じる認知症者の恐怖や不安を体感しました。
● 仮想空間で認知症者の疑似体験
この体験会では、ヘッドマウントディスプレイとヘッドホンを装着し、上下左右、360度に広がる仮想空間に入ることで認知症者が見える世界を体感します。認知症者へのヒアリングを基に作成されたストーリーを通し、電車に乗って現在地が分からなくなったり、友人の家を訪れて幻視に襲われたりする疑似体験をして恐怖や不安を共感します。認知症でも住み慣れた地域で暮らし続けられる社会をつくろうと、高齢者施設を運営する「シルバーウッド」(東京都港区)が1年半前からこの体験プロジェクトを展開。今では全国の自治体や企業から依頼を受け、総体験者数は1万7000人を超えたといいます。
↑スクリーンに映したVR画像。スクリーン上での画像は上下左右が切れていますが、ヘッドマウントディスプレイを装着して上下左右前後を見ると、仮想空間が360度広がって見えます
● 高層ビルの屋上 左右から「降りましょう」「大丈夫ですよ」の声
いわきでのプレイベントは7月19日に開催。2回に分けて計60人が“認知症”になり、「シルバーウッド」の黒田麻衣子さんから指導を受けました。ヘッドマウントディスプレイを装着した参加者は「おー」と驚きの声。立つように指示され、6つあるストーリーから「私をどうするのですか?」という話を選択します。すると高層ビルの屋上で都会の光景が広がり、下を向くと小さく見える車が走っています。左右から「右足から降りましょう」「大丈夫ですよ」との声が聞こえます。振り向くと左右にニコニコする男性と女性の姿。ビルから落とされそうな恐怖感を味わった参加者に、黒田さんはデイサービスの送迎車を降りる時に感じた認知症者の体験だと明かしました。疑似“認知症者”は、左右に立って安心感を与えようと笑顔を見せた職員の介助に不安感を抱きました。黒田さんは認知症者の感じる世界を想像できることで、安全な場所だと伝えるために正面に立つ介助法もひらめくと紹介しました。このほか、2つのストーリーも体感。体験した当法人の介護支援専門員(ケアマネジャー)・中野美奈は「虫が飛んだり、携帯電話のケーブルがヘビに見えて恐かった」と認知症者が感じる恐怖を味わっていました。
● 一般市民も体験できます
このVRは9月8日(土)に「アリオス」で開かれる「いごくフェス」で、一般市民も体験できます。8月1日に市地域包括ケア推進課のホームページ「いごく」で詳細が発表され、同日から受付開始。先着100人で、申し込みは同課まで。
※補足しまして、黒田さんは、「認知症は恐いものではない」「認知症になっても楽しく過ごせる」旨を強調しておられました。実際に認知症者の声(★)も動画で紹介し、その方々は認知症を前向きにとらえていました。原稿の内容が認知症の恐怖や不安を体感したという趣旨になってしまいましたが、それらを体験することで認知症者に優しくできるようになるという意図で書いております。
★実際に体験会で紹介された認知症者
丹野智文さん(コラム):https://yomidr.yomiuri.co.jp/column/tanno44/
樋口直美さん(ホームページ):https://peraichi.com/landing_pages/view/naomi
【VR認知症プロジェクト】
シルバーウッドホームページ:https://peraichi.com/landing_pages/view/vrninchisho
【いごくフェスでのVR認知症体験会】
日時:9月8日午前10時半~午後12時半
場所:いわき芸術文化交流館「アリオス」(福島県いわき市平字三崎1-6)
先着:100人
申し込み(8月1日から):0246-22-1202(いわき市地域包括ケア推進課)
詳細(8月1日発表):http://igoku.jp/
【認知症関連の記事】
http://ymciwakikai.jp/category32-1.html