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投稿:2018年07月20日更新:2021年05月11日

多職種連携・地域連携

362. いわき市医師会の前・新会長インタビュー㊤・長谷川前会長

少子高齢化による医療崩壊の危機を乗り切るかじ取り役を担ういわき市医師会の会長。先月、長谷川徳男前会長(長谷川整形外科医院)から木村守和新会長(木村医院)にたすきが渡りました。東日本大震災後に会長職を務めた長谷川前会長は、医師会館や准看護学校の新築移転やIT化を推し進め、地域医療を守り育てるための市民啓発を地道に続けて条例化につなげました。「医師不足」を一番の課題と考える木村新会長は「やれることは何でもやる」と固い決意を述べ、「総合診療医養成プログラム」といった構想も描いています。長谷川前会長に振り返り、木村新会長に将来のビジョンを聞いたインタビュー記事。2回に分けて紹介する1回目は長谷川前会長。

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↑いわき市医師会の長谷川前会長

<長谷川前会長のインタビュー>
―会長職を6年3カ月間務められ、大変お疲れ様でした。現在の心境をお聞かせください。
長い6年3カ月でしたが、行政を始め多職種の方々との連携推進を目標に掲げてやってきたつもりで、その連携がいい方向に向かっていると思います。大変だったこともたくさんありましたが、やっと肩の荷が下りました。自分としては全力を尽くしたので悔いはないです。

―18年前に理事になられてから医療情報担当を務め、これまでITで医師会の効率化を図ってきたということですが。
いわき市医師会のホームページは、私が理事になる3年前の1997年7月に医療情報ネットワーク委員会が中心となって県内の郡市医師会の中で最初に開設されました。同時に会員専用メーリングリストも立ち上げて、その後はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を構築して会員間の情報共有に努めてきました。当初から研究の一環として福島高専(いわき市・福島工業高等専門学校)の布施雅彦先生に外部専門員を依頼して、「いわき市感染症情報」(※1)や「いわき市医療機関検索」(※2)のシステムを構築して市民の方がホームページで閲覧、利用できるようにしました。

※1. 市内の感染症の発生件数を毎週水曜更新:http://db.iwaki.or.jp/fmi/iwp/cgi?-db=surveillance.fmp12&-loadframes

※2. 市内すべての医療機関を検索できる:http://db.iwaki.or.jp//fmi/iwp/cgi?-db=iwaki_medical.fmp12&-loadframes

―そのようにIT化、ICT(情報通信技術)推進に取り組んできて、東日本大震災後の2012(平成二十四)年春に会長になられましたね。
震災時にフェイスブックやツイッターの便利さに気付かされて、これを有効活用しなければと思っていた時に会長になったので、いわき市医師会のIT化宣言をして特にフェイスブックの活用を呼びかけました。

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―普段からフェイスブックを利用されていますね。
僕は日々の出来事やB級グルメネタを中心にして、医療のことで市民に知ってほしい情報も発信しています。医師会長というと市民目線からすると雲の上の存在だと思われていたでしょうが、敷居をグッと下げて私生活をさらけ出すことで、市民から気軽に相談をしてもらえるような雰囲気づくりをしています。フェイスブックを通して市民から講演やイベントの相談などの問い合わせを受けたこともありました。フェイスブック上のグループも医療関係で10近くつくって、多職種連携や会議の資料共有、意見交換にも役立てています。

―医師会組織のICT化はどうでしょうか?
毎月の理事会をペーパーレス化しました。それまでは数センチの厚さの重い資料を理事会前に発送し、理事会に持ち込んで終了後にまた持ち帰る、重要な書類もあるため処分も簡単に出来ず保管場所にも困っていました。そこで理事には回線付き「iPad(アイパッド)」を貸与して、オンライン上でファイルを共有できる「Dropbox(ドロップボックス)」を利用してペーパーレスで理事会を進めることにしました。身軽に理事会に参加できて情報共有もスムーズになって、医師会の組織改革の中ではこれが一番でした。

―震災後の会長就任で大変な時期だったのでは?
震災で医師会館も被害を受け、准看護学校の大講堂も大規模半壊となって取り壊しました。医師会館と准看護学校の新築移転は大変な仕事でしたが、市とも相談しながら土地探しから始めて、建設委員長として事務局長と2人で設計段階から業者と毎週のように打ち合わせをしましたので、唯一の休診日である木曜日はほぼ全部つぶれました。学生さんが明るく楽しく勉強出来るようにという願いを込めたオレンジ色を取り入れるなど設計には色々な想いを込めましたが、たまたまこの時期に会長職が回ってきただけで自分の功績だとは思っていません。得難い経験をさせて頂くことが出来て感謝しています。

―医師会館・准看護学校の移転・新築、ICT化以外にも様々な問題に取り組まれてきたと思いますが、その中でもいわき市地域医療を守り育てる基本条例(※3)の制定に関しては、行政への強い感謝の気持ちをお持ちのようですね。
僕が会長になってから一番うれしかったのがこの条例の制定です。自己都合で安易に夜間や休日に来院する「コンビニ受診」や救急車の不適正利用、医師不足などでいわき市の地域医療は疲弊しています。そこで地域医療を守るために、医療側、行政側、市民側のそれぞれすべきことを条例化してくださった。その条文の中に「医療の担い手に信頼と感謝の気持ちを持つ」という一言を入れるという医療者への配慮が、涙が出るほど嬉しかったのです。医者も人間ですから「いつまで待たせるんだ!」といわれれば意気消沈するし、「ありがとう」と感謝されたらやる気が出るんです。賛否もあるでしょうが、感謝の気持ちを条例に入れ込んでくれたことに心から感謝しています。いわきの地域医療を守るための医療側、行政側の努力はもう限界なんです。市民の皆様がこの条例の理念を理解して立ち上がって下さることを期待しています。

※3.  いわき市地域医療を守り育てる基本条例:地域医療を守り育てるために、市、市民、医療機関が取り組むべきことを定めた条例。罰則規定はない。詳しくは市のホームページhttp://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1505196310753/index.html

「かきくけこ運動」:いわき市地域医療を守り育てる基本条例に盛り込まれた市民に必要な心構えを「か」「き」「く」「け」「こ」で要約し、啓発する運動。医師不足や救急車の不適切利用などの改善のため、市民ができる取り組みをまとめている。

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―以前からあいさつの場で「感謝の気持ちを伝えよう」と市民に訴えられていましたね。
2007(平成十九)年に兵庫県丹波市で市内唯一の小児科医が退職するという話が出た際に、地元のお母さんたちが立ち上がって市民運動をしました(※4)。「コンビニ受診を控えよう」「かかりつけ医を持とう」「お医者さんに感謝の気持ちを伝えよう」の3つのスローガンで情報発信した結果、その小児科医は残って丹波市の小児科医療は守られました。これを知ってからは市の会議などでこれをお手本にしてはどうだろうと提案して、その気持ちが忖度されて、ついに条例として実を結んだのだろうと思っています。

※4. 県立柏原(かいばら)病院の小児科を守る会:http://mamorusyounika.com/aisatu.html

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↑市民公開講座で講話する長谷川前会長。「かきくけこ運動」も呼び掛けました=2017年10月28日、いわき市の平体育館

―やり残したことはありますか?
18年前に医師会役員になってから担当してきた「地域医療介護情報連携システム」の構築が道半ばなのが心残りです。一地域一患者一カルテを理想として仲間と語り合ってきましたが、震災を機に「いわき市地域医療情報連携システム」の構築が始まって、その後、県内の二次医療圏同士をつなぐ福島県医療情報ネットワークシステム「キビタン健康ネット」(※5)が立ち上がりました。将来的にはいわき市のシステムを「キビタン健康ネット」に統合する方向で調整中なので、いずれは福島県立医科大学やいわき市医療センターも参加して素晴らしいシステムになるはずです。「キビタン健康ネット」の名称に「キビタン」を入れる提案をした責任もあるので、全国に誇れるシステムに育ってほしいと思います。

※5. キビタン健康ネット:http://www.kibitan-k.net/

―次の世代に期待することは?
スティーブ・ジョブズの「ベストを尽くして失敗したら、ベストを尽くしたってことだ」という言葉があります。次の世代の人もベストを尽くして頑張ってほしいです。期待することを挙げるならば、市民が「かきくけこ活動」を暗唱できるようになるよう、いろんな会のあいさつの冒頭で市民に呼び掛けてほしいなと思います。

―今後はいわきでフットケアの発展のために尽力されたいと聞いています。
いわきは糖尿病の罹患率が高くて透析の患者さんも大変多いんです。糖尿病になると手足の指先の血行が悪くなって足を切断しなければならないこともあります。足を守る「フットケア」では、足の洗い方、爪の切り方、血行回復の専門的治療を含めた総合的なケアをします。フットケアを広める活動に関わって、いわきでもフットケアの会を立ち上げられたらなと思っています。

<次回は木村新会長インタビュー>

【いわき市医師会の前・新会長インタビュー㊦・木村新会長】
2018年7月21日投稿:http://ymciwakikai.jp/blog-entry-522.html