「障がい児の在宅看護をお願いしたら断られた」。いわき市内で重症心身障がい児を育てる家族からそういった声を聞きました。いわき市ではなぜ障がい児への訪問看護が広がらないのか? 訪問看護ステーション側は力になりたい想いがあっても、小児経験のある看護師不足で簡単に命を預かることができない現実がありました。障がい児の在宅看護にも取り組んでいる当法人のコスモス訪問看護ステーションでは、小児未経験の看護師が同僚の経験者から指導を受けて腕を磨いています。首都圏など都市部では障がい児の訪問看護を受け入れるための取り組みが盛んに行われており、いわき市でも受け入れのニーズが高まっているようです。
● 求められる小児看護スキル
いわき市訪問看護連絡協議会に加盟する13の訪問看護ステーションのうち、障がい児も看護しているのは5ステーション(2018年5月現在)。受け入れが進まない現状について、同協議会会長の鈴木聡子(コスモス訪問看護ステーション管理者)は、障がい児を看護するための現場の経験・人材不足を指摘します。鈴木は「たん吸引をするにも、体が成長途中の子どもはのどが細いので大人にするよりも難しい」とし「小児経験がない看護師は、傷つけてしまうのではという恐怖心がある」と二つ返事で引き受けられない現状を語ります。緊急時に連絡できる小児科医との連携も課題の一つですが、小児を看れる看護師育成が大きな鍵になります。
● 小児看護経験者が未経験者と同行して指導
当法人コスモス訪問看護ステーションは現在、障がい児3人の訪問看護をしています。受け入れられる要因は、鈴木も含めて小児経験の看護師が2人在籍し、未経験の看護師に直接指導ができるためです。患者の家族には小児未経験の看護師も勉強しながら看護に当たるのを理解してもらっています。人材育成には時間を要するため多くの障がい児を受け入れるのは現段階では困難ですが、鈴木は将来的にはもっと障がい児を受け入れられるよう体制を整えていきたいと考えています。
● 小児未経験看護師が初の一人訪問
小児看護未経験のコスモス訪問看護ステーションの看護師は、5月上旬から市内の重症心身障がい児(重心児)宅を鈴木と同行で訪問。5月25日には、自信を付けたその看護師が初めて一人で訪問しました。身に着けたエプロンは「白だと子どもに恐怖心を与える」(その看護師)とピンク色でキャラクターがプリントされています。親は不在。緊急時に備え、テーブルに置いたファイルには鈴木や家族の連絡先も入っています。バイタルチェック、簡単なリハビリ運動、たん吸引、オムツ交換、経管栄養以外に絵本の読み聞かせも行います。顔色が良好の子どもに「今日は体調がいいね」などと笑顔で声を掛けます。たん吸引も慎重に実施。一時帰宅した母親から胃ろうやお腹にできた湿疹の相談も受け、心配事にも答えます。看護師は「徐々に慣れて成長していきます」とあいさつして家を後にしました。事務所に戻ったらほかの看護師と情報共有し、たん吸引の手技を振り返っていました。
● 訪問看護 救われる子ども、家族
24時間頻繁にたん吸引を行わなければならないなど、重心児によっては付きっきりにならなければなりません。今回訪問した母親は「訪問看護やヘルパーがいなければ歯医者や美容院にも簡単に行けない」と語ります。病院に重心児を送迎するにも一苦労で「ちょっとした心配事を病院に行かずに相談できるのが助かる」と訪問看護の利点を挙げます。
● ターミナルケアと小児看護の違い
今回一人で訪問した看護師は「子どもの成長にしたがって薬の量も変わる」と小児看護の難しさを感じています。成長過程の小児のたん吸引をするには「手技による部分が大きい」とも。普段携わるターミナルケアでは「終末期に入り段々とできなくなるお年寄り」と接しますが、「少しずつできるようになっていく子ども」と関わる点での違いもあります。幸せな最期を迎えられるようお年寄りと触れ合う終末期ケアのやりがいもありますが「小児は成長する姿を見届けられ、それを励みに自分も成長できる」と小児の訪問看護の魅力も話していました。
● 市訪問看護連協、市教委から支援の依頼も
「障がい者も在宅で看れるよう国は推進している」と鈴木。東京都内では訪問看護ステーションに小児看護の相談窓口が設けられたり、看護師同士で小児技術を学び合う研修会も開催されています。いわき市訪問看護連絡協議会は去年夏、学校への訪問依頼を市教育委員会から受け、医療ケアが必要な児童をアドバイザーとして支援しようと検討中です。鈴木は「家族にのしかかっているものを、周りでサポートできる環境を整えていきたい」と話していました。
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