福島県言語聴覚士会いわき支部の特別講演会「きこえについて考えよう」がこのほど、いわき市のかしま病院コミュニティーホールで開かれました。言語聴覚士と認定補聴器技能者が講演。難聴が認知症の大きな原因になっているデータが示され、参加者は認知症予防面での「言語聴覚士」の役割を再確認。地域住民からの「補聴器はいくらで買えるか分からない」「持っているけど付けていない」という声に応えられるよう、適切な購入と継続的な装用などに必要な知識を身に付けました。
● 講師は言語聴覚士と認定補聴器技能者
講演会は9月11日に開催。講師は県言語聴覚士会いわき支部の言語聴覚士・板東竜矢さんと、補聴器調整のスペシャリスト「認定補聴器技能者」・佐藤直人さん(小名浜地区・「メガネと補聴器カーム」)が務め、言語聴覚士ら約30人が聴講。両講師から「言語聴覚士」と「認定補聴器技能者」の説明(※1)がありました。
※1.「言語聴覚士」とは
失語症などの「話す」、嚥下障害などの「食べる」、聴覚障害などの「聴く」に関する悩みに応え、患者の生活の質の向上に努めるリハビリ職です。比較的新しい国家資格で、合格者数は3万1233人(2018年3月末現在)。いわき市では病院、介護老人保健施設、訪問リハビリテーションなどで約40人が活躍しています。
※1.「認定補聴器技能者」とは
補聴器の販売や調整などに携わる者に、基準以上の知識や技能を持つことを認定して付与する補聴器専門の資格。財団法人テクノエイド協会が主催。耳鼻科との連携も必要とされ、耳の構造や病気、音響学、コミュニケーション学などの幅広い知識も求められる。全国、福島県、いわき市の登録者数はそれぞれ、3892人、44人、9人(2019年8月現在)
● 難聴者は認知症になりやすい
板東さんは耳の構造、難聴の種類、高音が聞こえにくくなる加齢性難聴の特徴を解説。認知症と難聴の関わりに触れ、中年期(45~64歳)の難聴がなければ認知症者が9%減少し、その割合は高血圧や肥満、喫煙などと比べても大きいと指摘。さらに平均77歳のお年寄り1984人を6年間追跡調査した結果、当初難聴だった人は聴力正常だった人に比べ24%認知症になりやすかったというデータも紹介しました。「難聴があると言葉を認識する力が弱まったり閉じこもりにつながって、脳への刺激が減る」と語り、聴覚リハビリのプロとして認知症予防に貢献できる役割を伝えました。
● 補聴器を購入するまでの流れ
佐藤さんは「受付相談・耳の観察」で始まる補聴器を「決定・購入」するまでの基本的な流れを説明。聴力の程度を把握するため口頭で行う「受付相談」、不自由さが生じる場面を具体的に聞き取る「ニーズの確認」、「聴力測定」、「導入時のガイダンス」といった過程でのポイントを紹介しました。補聴器貸し出し期間中の調整では「明瞭度をできるだけ確保し、雑音をできる限り抑える」という基本を説明。適合までに2週間~1カ月程度掛かり、主体的に臨む使用者の努力と客観・主観的評価などをする調整担当者の責務が大切だと説きました。
● 補聴器の適正価格は?
板東さんは難聴者とのコミュニケーション方法の工夫にも触れ「聞き取りやすい場所で」「目からの情報を活用しながら」「話し方を工夫する」ことで円滑な意思疎通ができると説明。それを踏まえ、聴覚障害に関する支援用品も紹介。フラッシュランプで来客を知らせる「光るチャイム」、書いたらすぐ消せて気軽な筆談ができる「磁気式メモボード」などを挙げました(※2)。佐藤さんは様々な補聴器を紹介。機能や価格帯の情報も交え、一番普及している耳かけ型や、耳あな型、最新の充電式など5種類を挙げました。使用者に合った補聴器の適正価格は「使用目的に合わせて判断されるべき」と、使用を継続させるためには「『完全に聴こえるようになる』という過度の期待が使用の諦めにもつながるので、効果と限界を十分に理解してもらうのが大切」と、アドバイスしました。
※2. 聴覚障害の方に役立つ支援用品を紹介(聴覚障害支援用品ガイドホームページ):https://moo-haya.ssl-lolipop.jp/nancho/
● 来場者から質問
来場者から「認定補聴器技能者に相談したい場合はどこに連絡すればいいか?」「補聴器の電池が切れたのを患者が分からない場合はどうするか?」という質問に、佐藤さんはそれぞれ、インターネットで調べられる(※3)、バッテリーチェッカーを使ったり電池切れを知らせるメロディー機能がある、と回答しました。
※3. 認定補聴器技能者検索システム(公益財団法人テクノエイド協会ホームページ):https://www3.techno-aids.or.jp/general/tech_search_prefecture.php?p=07
【関連情報】
「福島県言語聴覚士会ホームページ」:http://www.fukushima-st.org/
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「いわきの“クイズ王”、言語聴覚士の大平さん」 2017年6月9日投稿:https://iwakikai.jp/blog/2100/
「複数の病院を回っても耳に砂が入っていたと気づかれず、耳が遠くなったと決めつけられていた高齢患者がいた、という耳鼻科医の訴えがあった、いわき市医師会主催の『事業報告会と懇親会』 2019年2月5日投稿:https://iwakikai.jp/blog/189/