当法人の認知症対応型「まごころデイサービス」に通う全盲のA子さん。暗闇の恐怖があるのではないか-。代わりの“目”となって接し、安心させたい。専門職ではない職員が、認知症の「症状」ではなく「人間」としてあらためて向き合った不定期連載の3回目。(「地域連携・企画広報課」・西山将弘)
<A子さん>
ホールに「臭い!臭いよー!」という大声。車いすに座っているA子さんは左手をかぎながら叫んでいます。「はじめまして」とあいさつをしても「臭い!」とご機嫌斜めのご様子。体の調子をうかがっても大声を出され、うまく答えてもらえません。開けている左目は焦点が定まっていない感じ。それもそのはず、職員によると視力に障がいがあり全盲状態。数歳年上のお姉さんと2人で暮らしている80代だそうです。高齢者のみ世帯では介護が難しく、A子さんは毎回「まごころデイサービス」で体を拭いてもらってオムツ交換しています。
「体拭きましょうね」とスタッフに車いすを押され、A子さんはベッドに移動します。「何すんだ?」「止めろー!」「もーやだ!」とお怒り。スタッフが「これから体を拭きますよ」と説明をしても、A子さんの感情は収まりません。「嫌がる事をして申し訳ないです」と内心葛藤しつつ、でもここで体を拭いてオムツ交換しないと翌日まで不衛生のままに…。わたしは暴れるA子さんの両手をそっと握って落ち着かせ、その間にスタッフが作業。服を脱がせようとしたところでA子さんの叫び声は激しさを増しました。「誰かー!」「止めろー!」。自己防衛本能が働いたように爪を立て、握っているわたしの手の甲に食い込ませます。全盲で何をされているか分からない恐怖が伝わります。「オムツ交換しますよ」「清潔にしないとかゆくなっちゃいますよ」と説明を繰り返しても、A子さんの爪はわたしの手に噛み付いてきます。「大丈夫ですよー」と声を掛けるしかできませんでした。
オムツ交換が終わり、A子さんはそのままベッドで横に。左目の眼球を左右に動かしながら「次は何するの?」とボソボソ。呪文を唱えるように繰り返しています。「お昼ご飯までちょっと寝ましょうか」。しばらくベッドの右側に立ち、A子さんの右手を握り続けました。さっきまでコブラのように暴れていた手は、この時はもう、か弱そうな普段の手に。左目が閉じ眠ったようなので、手を離して離れようとしたら「姉ちゃん、次は何するの?」の声。この時初めて「姉ちゃん」と呼ばれました。「お昼ご飯までちょっと寝ましょうか」「一緒にいますよ」と答えると「あーそうけ」と落ち着いた様子。握った右手は温かかったです。
お昼ご飯の時間。A子さんはテーブルにつきます。「姉ちゃん、次は何するの?」「お昼ご飯ですよ」「あーそう」「お腹すきましたか?」「すいた」。テーブルには大好物のカボチャの煮物、鶏肉の揚げ物、エンドウマメのお浸し、タクアン、味噌汁、ごはん。食事介助するため「隣で一緒に食べてもいいですか?」と声を掛けると「いいですよ」。「カボチャですよ」と、はしをA子さんの口に運びます。あごに力が入ってしっかりと噛んでいます。「おいしいですか?」「おいしい」「甘いですか?」「甘い」。暗闇の世界にカボチャの甘味は広がっているようです。食後。「食べ過ぎた。姉ちゃん、次は何するの?」と聞くA子さん。「お腹いっぱいになったなら、少し休みましょうか?」「うん」。A子さんが落ち着いたのを確認し、現場を後にしました。
【「認知症の方と一緒に」の記事】
①M子さん 2019年6月28日投稿:https://iwakikai.jp/blog/1357/
②Kさん 2019年7月27日投稿:https://iwakikai.jp/blog/1524/
【まごころデイサービスホームページ】