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投稿:2017年11月11日更新:2022年12月06日

いわき医療偉人

181. 医を業として・齋藤光三氏伝記⑥~デイサービス開所への言葉

いわき市中心部から遠く離れた勿来地区の静かな山あい。ここに要介護度の改善率が市内1位のデイサービスがある。その名は「いっしょ」。運営する理学療法士の深澤弘さん(73)はかつて、齋藤内科(現在は閉院)でリハビリテーションを指導した経験もある。「いっしょ」の開所を考えていたころ、病に伏す院長の故齋藤光三氏(享年82)にその意志を打ち明けた。40年以上前に暗中模索し「デイ・ホスピタル」を開所した齋藤氏の言葉は、今も深澤さんの胸に刻まれている。お年寄り医療に情熱を注いだ齋藤氏を回顧する不定期連載の6回目。(企画課・西山将弘)

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↑要介護度の改善率が市内1位のデイサービス「いっしょ」=2017年10月18日、いわき市川部町

● 個別対応のサービス
いわき市中心部の平地区から南に車を走らせること約40分。田んぼに囲まれ、川部中学校の校門と向かい合って「いっしょ」は建っていた。キッチンからクリームソースの香りが漂う。昼食が始まった。ホールに食事運びで動き回る職員の姿はない。自力歩行できるお年寄りは順番に、自分で好きなものを好きな量だけ皿に分ける。セルフサービス形式だ。食べ終わったら自分で食器を台所に戻す。昼寝する人、読書する人、雑談する人、運動する人―。深澤さんは「お絵描きや計算など同じ時間帯に同じことをさせればやるだろうけど、もっと生活に身近なことを、その人に合ったやり方で指導したい」と話す。歩きたいという人がいれば職員と一緒に外を散歩。何もしたくないなら何もさせない。サービス時間は午前8時半から午後3時半までだが、リハビリ後すぐ帰宅する人もいる。個別対応のスタイルが「いっしょ」流。そんな個性的なサービスをする深澤さんは、34年前に齋藤氏と交流が始まった。

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↑ホールでの昼食=2017年10月18日

● 30年以上前にリハビリ指導の依頼
本格的なリハビリ指導ができる専門職がいなかった齋藤内科。市内のかしま病院の理事でもあった齋藤氏は1983(昭和五十八)年、同病院の理学療法士だった深澤さんに指導を依頼する。それを機に、お年寄り患者約10人が看護師と週1回、齋藤内科からかしま病院にバスで通い、深澤さんから指導を受けた。1年間ほど続いたという。さらに深澤さんは月1回、齋藤内科の訪問看護にも同行。家庭の住環境やリハビリ指導も行った。2000(平成十二)年に介護保険サービスが始まり、デイケアサービス運営のため齋藤内科で理学療法士が必要になった際は、深澤さんが週1回通っていた。

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↑セルフサービス形式の昼食。好きなものを好きな分だけ自分で皿に盛る=2017年10月18日

● 最後の時間を大切に過ごしてほしい
齊藤氏は「病院にいるもんじゃない。家で息を引き取らせたい」と話し、可能な限り入院させなかったという。死が迫った患者との最後の時間を大切に過ごしてほしいがため、齋藤氏は家族に「もう長くはない」とはっきり伝えていた。終末期の過ごし方を考えるのが今より一般的でなかった当時。深澤さんは「家族から反感もあったという声も聞いた」と振り返る。「だけど正直だったと思う」とも。NHKラジオのお坊さんの法話を録音して患者に聞かせたといい、死生観を問うことに熱心だった。家族からの反発を恐れず、患者が死を受け入れて悔いのない最期を迎えてほしいと願う齋藤氏の想いは真っ直ぐだった。

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↑「いっしょ」があるいわき市川部町=2017年10月18日

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↑好きな時に寝られる和室=2017年10月18日

● 「患者のために必要なことをやれば、自然と大きくなる」
深澤さんはかしま病院を退職した後も、フリーの理学療法士として活動した。毎月月曜から土曜まで、ボランティアホームを開所し無料でお年寄りをケアした時期もあった。デイサービスを開所しようと考えていたころ、病に伏す齋藤氏をお見舞いに行った。そこで開所の思いを打ち明けると齋藤氏はこう口にした。「医療は金儲けではない。最初は大々的にやるのではなく、患者のために必要なことをやっていれば自然と大きくなる」。1974(昭和四十九)年に「デイ・ホスピタル」を立ち上げ、長い間採算を度外視して運営した齋藤氏ならではの助言だった。齋藤氏が亡くなるおよそ1年前、深澤さんは2012年7月に「いっしょ」を開所する。

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↑市地域包括ケア推進会議から贈られた感謝状=2017年10月18日

● 要介護度の改善が評価され感謝状
開所から5年後。「いっしょ」は市地域包括ケア推進会議から感謝状を受ける。2014年から2016年にかけての要介護度の改善率が、市内のデイサービス事業所で1位だった実績が評価された。深澤さんは「(改善率が1番だったのは)知らなかった。まったく意識していない」と自然体。個別対応でのサービス継続は、経営面で楽ではない。早い帰宅を望む利用者に応えようと利用時間を短くすると、その分報酬は下がる。だが「デイサービスが乱立しているので利用者数が増えることはあまり期待できない。でも必要なことを続けていれば広まっていく。自分がしてほしくないことはやらない」。深澤さんの真っ直ぐさは、齋藤氏と重なる気がした。

(続く)

<医を業として・齋藤光三氏伝記>
https://iwakikai.jp/blog/?c=%e9%bd%8b%e8%97%a4%e5%85%89%e4%b8%89%e6%b0%8f%e4%bc%9d%e8%a8%98

<終末期を過ごす104歳女性とその長男の想いに迫ったドキュメント>
「㊤104歳女性の人生と最期への想い」 2017年3月31日投稿:https://iwakikai.jp/blog/2059/

「㊥介護する長男」 2017年4月7日投稿:https://iwakikai.jp/blog/2040/

「㊦介護する職員」 2017年4月14日投稿:https://iwakikai.jp/blog/2050/

<認知症の妻に寄り添う夫の介護日記>
「㊤腹を立てない」 2017年5月6日投稿:https://iwakikai.jp/blog/2122/

「㊦ありがとう」 2017年5月13日投稿:https://iwakikai.jp/blog/2135/

<難病や障がいと闘い1人在宅生活する女性へのインタビュー>
「㊤19もの難病、障がいを経験」 2017年7月1日投稿:https://iwakikai.jp/blog/2223/

「㊦熊本地震の被災経験も」  2017年7月4日投稿:https://iwakikai.jp/blog/2225/