いわき市に甚大な被害をもたらした去年秋の台風19号から、あす12日で丸半年が経過します。社会福祉法人「いわき福音協会」の避難誘導(※)で難を逃れた障がいを持つ避難者の数は3月末現在、ピーク時から91人減の21人になりました。狭い部屋で共同生活する避難がまだ続いていますが、ゴールデンウイーク前には全員がグループホームに戻れる見通しです。同協会の担当者は、今回の避難経験を今後に生かしていくと話しています。
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「台風から命守った 多くの障がい者を事前避難・いわき福音協会」 2019年11月12日投稿:https://iwakikai.jp/blog/2666/
● ゴールデンウイーク前に避難終わる見通し
同協会は台風19号に備え、浸水想定区域で生活する障がい者80人を事前に避難誘導。避難者の多くは市内で最も多くの犠牲者が出た平窪地区に住んでおり、一命をとりとめていました。避難者が生活していたグループホームは、床上浸水した平窪・赤井両地区の13カ所。3月末まで、そのうち7カ所が再開。残りの1カ所は取り壊し、5カ所は今月中に工事が終わる予定で、ゴールデンウイーク前には残った21人全員が住み替えなどをしながら帰れる見通しです。
● 狭い居室で共同生活
被災当初、避難者は同協会が運営する障がい児者支援センター「エリコ」で生活。1カ月後、「エリコ」の近くで、同協会のかつての職員宿舎「姉妹の家」を掃除し新たな仮住まいに移って避難生活を続けていました。「姉妹の家」は2階建てで計10居室と共同の風呂、トイレ、集会室を完備。台所付き6畳の1居室に、2人が寝泊まりしています。管理する同協会の共同生活援助事業所「シーズ」職員や、朝夕の食事準備などする世話人によると、ストレスケアが大変だといいます。新しい環境に慣れるまで1カ月ほどは落ち着かない行動が続くため、狭い部屋で独り言が止まらなくなると、同居人から「うるさくて寝れない」という苦情も。認知機能が落ちてしまった方も数人出ました。グループホームの再開で仲間が去っていくたび、残りの避難者は「いつ戻れるの」と寂しがったといいます。
● 励まし合って乗り越える
それでもクリスマスの時期にはパーティーを開き、集会所を飾り付けして励まし合いました。週末は買い物に出掛けて気分転換。「エリコ」での長い弁当生活と運動不足で一気に増えた体重も、「姉妹の家」に移ってからは健康を考えた温かい食事が提供され、みんな健康体に戻りました。すでに元の生活に戻った避難者が通う作業所からは、1カ月ほど経過してもう落ち着いた、という明るい報告も上がっています。
● 避難経験 今後に生かす
同協会は今回の避難経験がモデルケースになると考え、避難マニュアルを作成して万一に備えています。浸水被害度の高かったグループホームや入居者の心身の体調を踏まえた緊急度に応じたスムーズな避難誘導を行う心構えができたと、同協会の職員は学びを得た様子。保存食のお陰で支援物資が届くまでの2日間を乗り切れた経験からも、備蓄の重要性をあらためて確認できたといいます。「シーズ」の職員は支援してくれたボランティアに感謝しながら「寒い冬を乗り越え、やっと見通しが立った」と安堵しつつ、無事に全避難者が元の生活に戻れるよう気を引き締めていました。