ゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」の監修で有名な東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授(記事末尾に略歴)がこのほど、いわき市文化センターで講演して最先端の脳の鍛え方を紹介しました。演題は「子どもの才能を伸ばす秘密」。「頭が良くなる」機能を担う前頭前野を刺激するため、親子の読み聞かせや読書が効果的で、朝食に関して前例を覆す新事実、スマートフォンの依存で脳の発育が止まる恐ろしさなどを紹介。ウェブ会議やマスクを使用しての会話はコミュニケーション時に起こる刺激を脳は受けていないという、コロナ禍ならではのアドバイスもありました。川島教授は「脳は年齢関係なく改善する」と話し、子どもだけでなくお年寄りにもヒントに。ポイントをまとめてご紹介いたします。
※普段は先方にチェックしていただいておりますが、今回は川島教授のチェックを受けられていません。もしかしたら聞き間違えて書く可能性もありますのでご了承ください。間違いのないように十分配慮いたしましたことを付け加えさせていただきます。これを機にもっと詳しく知りたいという方は、川島教授の著書をご覧になって理解を深めていただけたら幸いです。
※講演会は株式会社マルトが11月21日に主催。川島教授に3年前から依頼をして実現した特別講演。約150人が来場し、コロナ感染予防で客席の間隔を空けて聴講しました。
★ 最先端の情報の前に、脳の機能を解説
大脳は場所ごとに別々の働きをするといい、川島教授は動物で人間だけが大きく発達しているという前頭前野の機能に注目。そこは思考と他人の気持ちを思いやる機能に関わるので子育てで大事だと強調。前頭前野は特に幼少期と思春期で急成長するので、就学前だけでなく中高生時代に自力で将来を切り開く力を身に付けるチャンスがあるとも話していました。
★ ウェブ対話での脳の反応は?
コミュニケーション時の脳活動(相手の気持ちを思いやる能力)の実験で、同じ学生に対面とウェブ上(ビデオチャットサービス)でそれぞれ議論してもらった結果、対面は活動の反応があった一方で、ウェブでのやりとりでは何もしていない状態と同じだったと説明。画像や音声のわずかな遅れのために脳が対面のように反応しないと推測されますが、現時点で原因は判明できていないといいます。川島教授は「現状では感染に気を付けて対面でコミュニケーションするのが重要」と、脳科学的にアドバイスをしました。
★ マスク着用しての脳の反応は?
マスクを着用した状態での会話も、脳はコミュニケーションをしていると判断していないという。マスクをする保育士には子どもがなつきにくく、それは子どもが敵か味方かを判断しようとするのに表情を読み取れないため。そのため、透明なフェイスカバーをして子どもと接するよう指導しているといいます。
★ 朝食の最新情報
脳細胞はブドウ糖だけを受け付けるので、朝食にごはんやパンを食べないと脳のエネルギーが届かない、というのがこれまでの一般常識でした。実際、小中高校と毎日朝食を食べていた人は、そうでない人よりも第一志望の大学に入学でき、第一志望の会社に就職でき、年収もいいデータを紹介。ですが、朝食習慣があっても結果が出ていない人も顕著で調べた結果、朝食におにぎりだけを食べた人は脳にブドウ糖が届いてもうまく働いていないことが判明。「ブドウ糖だけでは脳が働ききれない」という最先端の事実が共有され、川島教授はおかずも多く取り入れた朝食が大事と強調。時間のある時に冷凍庫におかずを保存しておくなど工夫すれば、忙しい朝に準備しなくてもできるとも助言しました。
★ 親子一緒に取り組む効果
親が子どもと同じ時間、同じ空間を共有して一緒にやることが脳を刺激させます。親子が一緒に調理した実験で前頭前野が活発に働き、携帯電話で会話するより顔を見て話すのがいい。ほめる声掛けも爆発的に脳活動を刺激するようですが、注意したいのは、目的を達成して後でほめても脳は反応しないという。例えば、親が台所で家事をし、子どもが別の場所で宿題し、後からほめても脳に刺激はない。そのためにも、一緒に何かをしてその場でほめるのが効果的だといいました。
★ 読み聞かせは子育てを楽に
親が子どもに1日に10分ほど読み聞かせした実験の結果、言語能力の向上が見られたほかに、子どもの問題行動が減り、親は子育てのストレスが減ったといいます。それは読み聞かせにより、親は子どもの心に近づこうと脳が活動し、子どもは感情を担う脳部位に刺激が出るため。川島教授は「読み聞かせの時間を10分、15分つくったら子育てが楽になる」「コロナのストレスがあるからこそ、読み聞かせが大事だ」と助言しました。
★ 創造性を伸ばす読書
創造性を担う脳部位は読書時に使う脳と同じだと、川島教授。クリエイティビティ―を伸ばしたい企業からの依頼で読書を提案した結果、本を読んだ社員は成果が現れたといいました。学校で詰め込んだ知識を使って何を生み出すか、考え出す力をはぐくむのは読書と話していました。
★ スマホの恐怖
スマートフォン・タブレットを使う子どもの脳の発育を3年追跡した結果、3年前と大きさが変わっていないことが判明。その場合、中学2年生の生徒は小学5年生の脳で勉強することになり、付いていくのが困難に。無料通話アプリは影響しやすいとのこと。現時点で原因は不明だといいます。スマホに依存する大人は脳が老化し、共感性が失われてうつ傾向に。スマホを道具として使うのではなく、1時間以上、スマホが無いと落ち着かないような“使われる”状態になると危険だという話でした。
● 最先端の脳トレ
効率的に作業したり、抑制力、注意力を向上させる前頭前野のトレーニング法も紹介。2人いれば簡単にできる方法です。
<易しい>
①問題を出す側と答える側に分かれます
②問題を出す側は「7、0、5、9、2」と適当に数字を言い、その後答える側が同じ数字を答えていきます
※10ケタまでいけたら良いと川島教授
<難しい>
① 問題を出す側と答える側に分かれます
② 問題を出す側が「6、0、4、9、5、6」と適当に数字を言い、答える側は「6、5、9、4、0、6」と逆に答えていきます
<川島隆太教授の略歴(講演会チラシより)>
1959年 千葉県生まれ(62歳)
1985年 東北大学医学部卒業。
その後、同大学院医学研究科で学び医学博士となる。スウェーデン王立カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学加齢医学研究助手、同専任講師を経て、東北大学未来科学技術共同研究センター教授。
現職 東北大学加齢医学研究所所長、スマート・エイジング学際重点研究センター長、東北大学ナレッジキャスト株式会社取締役
<記者のひとこと>
来場者の方からの質問に、川島教授が「何歳からでも脳を改善できる」と回答され、来場された多くの方に勇気を与えたように思いました。もう一つ印象的だった話は「子どもと一緒に過ごすのが脳に好影響を与える」という点。去年の夏、当医和生会(いわきかい)で開かれた「まぁるい抱っこ講座」での講師の話を思い出します(その記事:https://iwakikai.jp/blog/1821/)。その講師は「子どもが泣いた時だけ抱っこしていないか?」「子どもがかまってほしいというサインを出す前に抱っこして安心感を与えるのが大事」と金言。川島教授の話によると、子どもが何かして後から親が反応を示すのでは、脳が刺激されないということで、やはり一緒に過ごす時間をつくるのは脳科学的にも、実践的にも脳には有効なんだと思いました。育児で悩まれている方へ。お子さんと一緒に何か作業してみたり、読み聞かせをしてみてはいかがでしょうか。(事業推進室・西山将弘)
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