いわき市平地区の医療・介護・福祉関係者が交流する「平在宅療養多職種連携の会」がこのほど、オンライン上で開かれました。理学療法士が「自宅退院」を目標にしたリハビリの事例を共有。参加者は近所住民の支えの大切さを再確認しました。
● 30人が参加
医師、歯科医師、薬剤師、看護師、介護支援専門員(ケアマネジャー)、介護職員、リハビリ職など30人が参加し、7月18日に開かれました。発表者は「自宅退院へのリハビリ〜RehabilitationのReは再び」と題して発表。介護保険だけではなく近隣や友人の助けも受けての生活を考えた事例を紹介しました。
● 本人とご家族の希望を整理
事例では右片まひの60代の独居男性を取り上げました。入院前は車で買い物し、数ヶ月前まで母親を介護していたためバリアフリーの自宅で生活していました。脳梗塞で入院し、当初、男性は「お墓参りをしなければ。飼い猫が心配」「家事は自分でできるようになりたい」「早く退院したい」と口にしていました。キーパーソンとなる長女は「独居を心配し、サービス付き高齢者住宅に入ってほしい」と望んでいました。そうした声を元に、心身機能、活動、社会参加の3項目ごとに「目標としているもの」と「リハビリ内容」をまとめ、一覧にしました。
● 近隣住民との関わりも情報収集
1カ月後、右まひの改善が見られ、病棟内の日常生活動作(ADL)はほぼ自力で可能までに回復しました。男性の心境は「独居でも家事はできそう」「買い物やお墓参りは車の運転ができないと困る」と気にしていました。運転を望む一方、長女から左右の言い間違いを指摘されたり、運転が危ないと思われたままでは孫守りをさせてもらえないと、諦める発言も出てきたといいます。階段昇降や屋外歩行も可能に回復し、リハビリカンファでは目標をスーパーで買い物ができるくらいに歩き続けられるように設定。運転再開よりも孫守り、家事、書字が優先的な希望になってきた様子もあり、運転支援は経過を見守ることに。また、独居のため近隣住民や友人との関わりをも情報収集するとともに、墓参りや法事への焦りを傾聴するようにしました。
● 2カ月後
入院中の1日3回のリハビリ内容も紹介されました。2カ月後、男性は「腕が上がらず運転が厳しい。孫を乗せられない」と話すように。退院支援を考えるカンファでは、腰痛はなくなり、発話、書字は改善したがサインするまでは難しい状態。不安は「日常生活動作」「孫守り」「法事や墓参り」と確認。リハビリ、買い物、調理、掃除の課題などを見つけて支援の提案をしました。
● 入院中から実践する
退院後は、訪問介護を週1回、通所リハビリを週2回のほか、配食サービス、移動スーパー、宅配サービスなどを利用。退院から1年半後、通所リハビリはそろそろ卒業、ADLが自立できるまでに回復しました。近所の方々からも見守られ、ゴミ出しも手伝ってもらい、孫の小学校までの散歩が日課となり教員とも顔見知りになったといいます。発表者は「リハビリは『手足を動かす』『歩く』だけでもなく『在宅』での動き、さらに『外出』も考えることが大切。『想定して』ではなく『入院中から実践できる』取り組みに変えて行かねばならない」と学びを共有しました。
● 参加者からの感想
参加者からの意見で、事例の男性が歯みがきに苦戦していたことから、歯科医師が体の不自由な方の歯みがきをアドバイス。利き腕がある程度動かせるなら柄の大きい握りやすいものを使うといいとし、ほとんど動かないならご家族に手伝ってもらうか、電動歯ブラシの利用を勧めました。ケアマネジャーは「入院中から積極的に退院後に何をやりたいか聞いてもらえたと患者本人から感謝され、具体的にこういう支援を望んでいると伝えてもらえて助かった」と感謝しました。
● 地域全体での支え合い大切
同多職種連携の会の山内俊明会長(山内クリニック院長)は「プロの仲間の繋がりも大事だが、地域の方々の力が大切だと改めて実感した。地域の方々が地域活動に入りやすくなるためにも、企業が地域活動に参加する職員を評価し、さらに行政がそのような企業を評価するようになれば、地域全体で包括ケアができるのではないか」と、改めて地域全体での支え合いの大切さを呼び掛けました。
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