当法人の認知症対応型「まごころデイサービス」で、明るくひょうきんな姿を見せてくれる男性ご利用者のKさん。施設内を盛り上げるムードメーカーで、得意な歌声と朗読を聞かせてくださりました。認知症の「症状」ではなく「人間」としてあらためて向き合う不定期連載の2人目。(「地域連携・企画広報課」・西山将弘)
<Kさん>
「オッ、オッ、オーッ、オッ」。Kさんは弾むように高い声を出し、ご機嫌な表情でいすに座っています。あいさつすると「アオーッ、オッ、オッ!元気だよー!」。そう言ってコミカルに自身の頭をポンポンとたたく姿はひょうきん。握手を求められ、ずっと手を離さないで握り返してきました。「学校の先生をしていた」(Kさん)というように、チェックのワイシャツと黒革のベルトに紺のスラックスを身に付けた教師らしい格好。浅黒くつやのある肌をしています。
見た目は70代後半くらいでしょうか。年齢を尋ねると「うーん」としばらく考え込み「忘れた」と笑顔。「出身はどちらですか?」と尋ねても、ハハハとKさんスマイル。「昔の事だから忘れちゃいましたよね」と声を掛けたところでリハビリの時間に。スタッフから「運動しましょう」と言われると「ハイ!」と返事し、平行棒で歩行訓練。大股で跳ねるようにひょいひょい歩き、両手で平行棒をつかんで両脚を上げる“大技”を見せてハッスルしていました。
テーブルに戻り、演歌と思われる鼻歌や歌声を聞かせてくれました。「オッ、オッ、オッ」との声も時折交じえながら、周囲に気を遣った程よい音量で自慢ののどを披露します。「うまいですね!昔よく歌っていたんですか?」というと、「またまた、お世辞がうまいね」と言いたげに笑顔でわたしを指差します。鼻歌に反応したのか、向かいに座っていたH子さんが「♪ついて~ 来いとは~ 言わぬのに~」と歌い出すと、Kさんは口笛を吹きながら両手を動かして指揮。上機嫌になったH子さんは「ありがとう、ありがとう」と喜び「いい顔してるね。鼻が高くて」とKさんを褒めます。Kさんは「よく言うよ」と言いたげに、今度はH子さんを指差して照れ笑いしていました。
本の朗読が得意なKさん。読み聞かせしてくれたお話は「そんごくう」。地の文は平穏に、会話文は感情を込めて朗読します。主人公のサル・悟空が金の輪を頭に付けられ締め付けられる場面は「ギャー、いてて!オッ、オッ!」。金角、銀角と戦うシーンでは「エイッ!ヤー!オッ!」。悟空が岩の下敷きになって500年が過ぎた場面では「大変だなあ」という即興のナレーションも。朗読後、「上手ですね。昔は国語の先生だったのですか?」と尋ねるも、うまく思い出せない様子で笑顔。逆に「どこから来たの?」「忙しいの?」と聞き返されました。「出身はどちらですか?」と再び聞くと具体的な地名が挙がり、記憶の引き出しを開けてくれました。
みそ汁やご飯をお椀によそう仕事はKさんの“お仕事”。昼食が終わると、Kさんは洗濯物干しの手伝いもします。バスタオルを掛け、きっちりと角と角を合わせ、ピッ、ピッと引っ張ります。一枚一枚じっくりと几帳面に干していました。Kさんがソファーに座って一段落したところでわたしはお別れ。「またお会いしましょう」と握手。「オッ、オッ、オッ、オーッ」。“Kさん節”は最後まで絶好調でした。
【まごころデイサービスの施設紹介ページ】
https://iwakikai.jp/service/magokoro/
【認知症の方と一緒に】
①M子さん 2019年6月28日投稿:https://iwakikai.jp/blog/1357/
【認知症サポーター養成講座の記事】
「当法人グループ『いわきの里』職員」 2019年5月2日投稿:https://iwakikai.jp/blog/677/
「市民」 2019年2月19日投稿:https://iwakikai.jp/blog/638/
「平・赤沼地区住民」 2018年8月24日投稿:https://iwakikai.jp/blog/732/
「当法人職員」 2018年5月22日投稿:https://iwakikai.jp/blog/1034/