前回までに認知症の具体的な症状と発症の理由、気付くポイントを解説していきました。
第4回では、認知症の人にどう接すれば安心してもらえるかをご紹介します。
優しく接することで症状の悪化を抑え、 第2回でもお伝えした「行動・心理症状」の出現頻度を減らすことも期待できます。
本シリーズは医和生会(いわきかい)の介護支援専門員(ケアマネジャー)で、認知症のスペシャリストでもある芳賀が、認知症に関する基礎知識や接し方、予防について、身近な体験を通してシリーズで解説します。
芳賀は「このシリーズを読むことで、認知症の人に対して不安を抱かず、優しく接するきっかけになってほしい」と願っています。
● 感情の記憶は残る
まず覚えてほしいのは「認知症がどんなに進行しても、感情は残る」ということです。
仮に、『どうせすぐに忘れるだろう』と家族が叱ってばかりいるとします。
すると認知症の人は、叱られた内容は忘れても「この人は恐い」「この人といると不安」といった負の感情が残ります。
ですので、「認知症だから何もわからない」と決めつけず、「一人の人間として接する」、これが基本です。
認知症が進行し、たとえ皆さんの名前や顔を忘れてしまったとしても、感情は残り続けます。
温かい対応で、感情に働きかけることが大切です。
「自分がされて嫌な対応はしない」と意識するといいかもしれません。
● ケアのポイント①
私が認知症の人と接する時には、たとえ同じ話でも時間を掛けて何回も聴きます。
そうすることで相手は「この人はいい人」だと安心し、心を開いてくれるからです。
もちろん時間を掛けて話を聴き、困り事を解決しようと試みても、「うるさい」「帰れ」と拒否されたこともあります。
それでも、 第2回で紹介したように、そのイライラは「うまくいかないことに対するもどかしさや不安」と冷静に受け止めるようにしています。
一人の人間として、そして人生の先輩として、相手を敬う・時間を掛けて話を聴く・優しく声掛けする、を根気強く続けると、少しずつ安心してもらえます。
それが症状の緩和につながることもあります。
● ケアのポイント②
認知症の人を安心させるテクニックはほかにも色々あります。
質問する時は2択で答えられるようにするといいでしょう。
例えば「何がしたいですか?」より「外に出たいですか?」「お茶を飲みますか?」といったように。
これなら混乱せず、安心して答えることができます。
相手が好きな話題を振るのも効果的です。
認知症でも昔の思い出はよく覚えているので、昔の話は盛り上がります。
年齢を聞いて答えた年齢に合わせるのも心を開いてもらえるきっかけになるかもしれません。
本当は80歳でも、「私は40歳」と言われたら、その人は“40歳の世界”にいると思ってください。
「40歳なわけないですよ」と否定せず、40歳だと思って話を聞き、相手に寄り添うことが大切です。
● 身近な人が認知症になると
身近な人(特に自分の親など)が認知症になると、家族は、関係が近いがために感情的になりがちです。
すぐに受け入れることは難しいかもしれません。
そういう時は介護に一生懸命になり過ぎずに程よい距離感を保って、息抜きするのも大切です。
担当のケアマネジャーがいる場合には、悩みを相談してみてください。
介護保険サービスを上手に利用し、気分転換できる方法を提案してくれると思います。
● 「もしかして?」と思ったら
もし、街中で道に迷っているような高齢者を見かけたときには慌てずに優しく声を掛けてください。
もしかしたらその方は認知症で、自分が今どこにいるのかわからず、困っているのかもしれません。
声掛けの心得は「驚かさない」「急がせない」「プライドを傷つけない」の「3つの『ない』」です。
驚かせないために、後ろからではなく、正面からあいさつし、ゆっくりと優しい口調で話します。
道に迷って名前も答えられないでいるようでしたら、持ち物に身元が書いてあるかもしれないので、確認してみてください。
それでも分からないときには警察に連絡するという方法もあります。
● まとめ
繰り返しになりますが、認知症の人に接する基本は「一人の人間として接すること」です。
認知症の人は体験した出来事を忘れてしまうこともありますが、あなたが優しく接してくれたら「この人といるとなんかホッとする」と良い感情が残り、安心してもらえます。
優しく接することができる人が増えると、認知症の人も安心して暮らし続けられる地域になるはずです。
最終回の次回は認知症の予防について考えます。
<講師・芳賀の紹介>
医和生会居宅介護支援事業所の主任介護支援専門員(ケアマネジャー)。20年以上介護の仕事に従事。認知症介護指導者養成研修の修了者であり、「認知症キャラバン・メイト」の資格も保有。
ケアマネジャーとして利用者さんの在宅生活を支える一方で、地域住民に向けて認知症への理解を広める活動にも力を入れています。
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